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第56回人権交流京都市研究集会
報告 木下 松二(部落解放同盟京都市協議会議長)
部落解放同盟京都市協議会の木下議長から身近に起こった差別事象として、京都市内で20年前に起こった結婚差別の事件を議論のきっかけとして話していただきます。
この事件では、本人の知らない間に戸籍謄本を第三者が入手されました。木下議長から紹介していただきます。
事件の概要は部落出身者の女性が、2003年に京都市内で被差別部落を理由に結婚を反対するために両親と祖父の戸籍等を不正に入手して身元を暴かれるという事件が起きました。本人の知らない間に戸籍謄本が第三者によって取得されるという身元調査で本人も知らなかった部落出身者であることが曝かれた上で結婚に反対されるという結婚差別事件が起こりました。男性が自身の両親と兄に結婚をしたいと伝えたところ、女性の父親の本籍地が部落であり、血が穢れるなどと結婚に反対をしました。その話を彼から伝えられた女性は、自身が部落出身ということをしらなかったこともあり大きなショックを受け、電話帳で部落解放同盟京都府連の番号を調べ、相談に乗って欲しいと連絡がありました。そこから府連としての取り組みが始まりました。誰が戸籍を取得したのかを調べるために女性自身や女性の母が京都市の個人情報保護条例に基づいて戸籍等の請求情報の開示を述べ4度に渡って行なった結果、4つの区役所にわたる請求用紙が開示されました。すると、女性本人や故人である父の本籍地や除籍謄本が請求されていました。請求事由には、裁判や登記に○がついていたが本人に思い当たる節がなかった。故人の除籍謄本も取得されていたため、身元調査以外にはないと考えられた。しかし、請求用紙は開示されたが請求者の指名や住所など本人を特定するものは黒塗りにされており、司法書士用の職務上請求用紙が使用されていたことが判明した。職務上請求用紙は、戸籍法施行規則第11条に示された国家資格の職務上請求用紙は、弁護士や司法書士、税理士など、戸籍法施行規則第11条に示された、
特化資格である8行使の組織だけが判行し、ほとんどフリーパスで戸籍等などを取得できるものです。そのため、職務上請求用紙は窓口の一般の請求用紙と異なり公的請求に準ずるものであり請求人やその住所などが黒塗りにされていました。これでは、不正目的での取得であっても差別した加害者が保護される状態でありました。請求要旨の筆跡から男性の父の税理士事務所に出入りしていた司法書士が浮上しました。黒塗りなしの全面開示を求め不服申し立てを準備していたところ、当該の司法書士が京都市の第三者照会に応じ開示を承諾したため全面開示されました。全面開示の結果、戸籍謄本等の請求者は男性の父の税理士事務所に出入りしていた司法書士でした。男性の父は税理士であり、自らも職務上請求を出来るため職務上請求の重要性を熟知していたため、司法書士に依頼していたと言うことは、身元調査をよくしていることを感じされる。この事件では、部落を理由に結婚を差別することが問題でありますが、結婚相手が部落出身ということを調べるために本人の承諾なしに身元を曝かれたことは重大な社会問題であります。
私自身はいくつかこの事件で気になる点があります。結婚差別を受けた女性自身が、部落問題をかわいそうだという感覚でとられていて、自分が突然、部落出身ということがわかり驚いたのかもしれません。過去には、結婚差別を理由に自らの命を断つということもありました。私自身の経験の中にも、結婚差別で亡くなった方がいました。
この紹介した結婚差別事件は結男性が女性をしっかりと支えたから今もお子さんがおられ、幸せに暮らされています。しかし、部落差別は人の命を奪うことにもなります。
続けて、戸籍謄本が取得されるという事件がこの頃から頻繁に報告されました。プライム事件というのが戸籍謄本にかぎらず部落であるという証拠書類を高額で売りさばいていたという事件です。
引っ張り出してくれる高額でそのふりさまいていたというような事件がありました。
プライム事件とは、職歴情報の不正取得が行なわれていました。2011年11月に東京都内のプライム総合法律事務所に関連した事務所社長や司法書士や元弁護士の5人の逮捕から始まりました。5人は職務上請求用紙を偽造して戸籍謄本等を不正に取得し全員が名古屋地裁で有罪になりました。2012年6月に入りハローワーク横浜の職員が雇用保険にかかわる職歴情報を調査会社に提供していた事件が発覚します。個人情報漏えいはこれにとどまらず6月末になって岡山県の携帯電話会社の顧客情報、消費者金融の顧客情報の不正取得事件が相次ぎました。また、7月には長野県警の警察官による車検情報を調査会社に提供した事件が明らかになりました。
プライム事件の特徴としては3つほどあります。第一は、大掛かりなネットワークができていた点です。依頼者である市民は身元調査などを高い料金を払ってでも地元の興信所や探偵業者に依頼しますが、地元の興信所や探偵業者はどんな情報でも取れるわけではありません。一方で、行政書士や司法書士、携帯電話会社の社員、ハローワークの職員などを買収して情報をえることができる関係者が存在しています。その両者をつないだのが、愛知県の情報会社でした。情報の欲しい興信所と売りたい興信所の仲介を担い個人情報の販売ネットワークをつくりました。
2点目は職歴や車両情報、携帯情報などの情報が犯罪や人権侵害に利用されたことです。
3つ目には個人情報が一大ビジネスとなっているということです。
事件の過程で、同和地区への見事調査は依然として社会の中に根付よく存在しています。
改めてこの深刻な現状をはっきりさせておきたいと思います。プライム社の社長は顧客の依頼は85%から90%が結婚相手の見事調査と浮気の調査を表現し裁判で行政書士は明治時代から続いていたような調査を求めた人が多いと語りました。犯行グループ自体が身元調査の依頼の件数に驚いているという様子も現れています。
これを裏付けるように広島県福山市が2011年に行った人権尊重の街づくりに関する市民意識調査で身元調査についてどう思いますかという質問に対して、
「差別につなぐ恐れがあるのでするべきではないと回答した市民は26.9%」、「良くないことだと思うがある程度は仕方ないことだと思うが48.5%」「身元調査をすることは当然のことだと思うが10.2%」となっています。一方、同和地区問い合わせ調査も報告されています。
そのため、戸籍等の本人通知制度は不正取得防止として十分に効果的であり全国に広げていくことが必要になります。また最後は人権教育啓発の推進が必要です。プライム事件の首謀者の一人は法廷で不正取得は依頼する国民がいるからだと述べ、国民の意識の改革は必要だと言っています。実際逮捕された彼らも依頼がなければ、そしてそれがお金にならなければ、不正取得や情報漏えいで利益を得ることがないわけです。
依頼者がいてお金になるから身元調査と不正取得はなくなることはありません。
不正取得をなくすためには一番大事なことは、身元調査を必要としない社会をつくることであり国民の人権意識を高めることです。
戸籍不正取得事件についての報告させていただきました。
(第1部のフリートーク)
A:先ほど紹介された結婚差別事件で結婚差別した側の母が学校の先生であるとの記述がある。学校の先生が、差別をしたというのがショックであり皆さんの意見を聞きたい。
B:私も同和教育を受けてきたが動画を見るだけとか内容が簡単ではないかという印象がある。
C:小学校の教師をしている。同和教育を先輩から教えてもらい学校で同和教育をしないとどこで行なうのかと思っている。未だに結婚差別の事例を聞くが見ようとしないと見えにくくなっている現状がある。現在では、人権教育とひとまとめにされ、同和問題が他の問題と一緒になっていることに危惧を感じる。国民的課題であると言われて現在もなお無くなっていないというのは教育面からも考えていかなければならない。
D:結婚差別事件というのは厳しい問題であり、水平社が出来て100年を超えてもなお、差別が残っているという現実を踏まえるべきであるとつくづく感じる。
E:同和教育をどこで教えるのかという話があったが、Youtubeで面白おかしく悪い所だけを流しているものがありそれをみた子どもがそれを見て信じる可能性があるので、小中学校で同和教育をしっかりやってほしい。
今日、特に皆さん、貴重なご意見を出していただいてありがたいです。
(第2部)
「部落地名総鑑事件」について簡単に説明させていただきます。2025年はこの事件が発覚してから50年という大きな節目を迎えます。
1965年8月の同和対策審議会答申により国や自治体による同和問題の取り組みが本格化していきます。企業の採用の際に本人の能力と適性以外の事項で採否を判断してはならないという基本的な問題に対する運動により統一応募用紙が使われるようになります。そえまでは社用紙を使って部落出身者やマイノリティを排除してきた企業が統一応募用紙の採用により確認できなくなったという状況も一因になって企業に部落地名総鑑が販売されるようになりました。1975年11月18日に部落解放同盟大阪府連会人権対策部宛に「部落地名総鑑」の購入を呼びかけるダイレクトメールが送付されました。大阪の企業の内部告発であると思われます。大阪府連は関係者から「部落地名総鑑」を入手し記者会見を行ない新聞やテレビでも大きく取り上げられ国会でも関係各省に対する追求も行なわれました。その後、8種類の部落地名総鑑の存在と200社もの購入者が明らかになりました。「部落地名総鑑」には、およそ5300箇所にも及ぶ部落が書かれ、名前、所在地、戸数、主な職業が記載され都府県別に作成されていました。販売者は、興信所や探偵業者などの調査業者です。就職に際し部落出身者を採用しないという企業の差別体質と部落出身者と結婚したくないという世間の差別の実態に着目し金儲けのために「部落地名総鑑」を作成販売がなされました。その後、1985年に大阪府で「部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」が制定されました。
部落地名総鑑発覚以降50年の及ぶ取り組みにより部落差別の撤廃と人権確立に向けて様々な条件が積み上げられてきていますが、「「部落地名総鑑」の解決は部落差別が撤廃されたときです。それは部落差別がある限り相手の人が部落であるということを調べることがなくならないからです。
現在では、ネットで部落の所在地を明らかにする事件が起こっています。「部落地名総鑑」復刻版訴訟については一定の成果が出たがネット上での差別事象はなくなっていないです。
フリートークの2つ目の前の報告はこれまでとさせていただきます
フリートーク
A:地名総監の事件がウェブ上にも出ている中で見てみると差別されるかもしれないと思いながら暮らしていくのが苦しいことであると思う。被差別部落であるということで差別されるという状況でもなくアイデンティティがあるか出身ということで差別がおかしいと言っていく側を増やしていかなければならないと思う。
B:部落問題は本人がどう思うかに関わらず差別したければできてしまうというのが問題の本質になるかなというふうに思っています。部落に対してどういうアイデンティティがあるにしても差別するものはおかしいといえる人を増やしていける学校教育が必要であると思います。
C:かつては行政でも同和研修がはっきりあった。しかし、最近は法律が改正されたこともあり人権という言葉がかなり多様になっている。多様な人権が認められる社会になるのと同時に歴史を踏まえて部落問題を認識していく必要がある。全国水平社創立から血のにじむような思いをされ、人権を勝ち取ってこられた貴重な歴史を検証しながら同和問題に対応していく必要があるように感じた。
D:ネット社会で何かを調べるとすぐに出てくる世界であり、AIが作り出すものもあると思うので意識をしっかりもたなければならないと思う。部落のホルモン洋食が好きで食べるけれど、食べられる場所が減ってきている。これを引き継げるとかプラスの発信が出来る取り組みが出来ると良いと感じた。
E:差別をなくすために偏見や先入観をなくしてお互いの違いを認める社会をつくっていかなければならないと思っています。自分の身の回りで差別や偏見があれば勇気を出して発信して行く努力が必要でないかと思う。
(おわりに)
木下議長:差別が現在あるということは、差別を必要とする人、排除をしたいという人がいるから差別がなくなっていない。そういう人を減らすためにも教育や啓発が必要であり日々、取り組みを進めていかなければならない。差別をする側への啓発と差別を受けた側へのケアをする取り組みをすすめ人権を守るという主体性をもって勉強し理解し発信していくことが大切であると思います。
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