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第52回人権交流京都市研究集会
基調講演
上杉 聰
(元大阪市立大学教授,じんけんSCHOLA共同代表)
質疑応答
質問者 京都市小学校同和教育研究会 会員
京都市立中学校教育研究会人権教育部会 会員
部落解放同盟京都市協議会 会員
分科会責任者 東原 幹人 (京都市小学校同和教育研究会)
分科会庶務・司会 弓削雅哉(京都市立中学校教育研究会人権教育部会)
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第1分科会の流れと基調講演のおもな内容
開始にあたって,第3分科会の方向性とすすめ方について,庶務の弓削雅哉さんから説明がなされた。続いて基調講演の上杉聰さんの紹介を分科会の責任者である東原幹人さんが行った。基調講演では,『部落と人権〜公教育における部落問題の取り組みに向けて〜』をテーマに,講演者である上杉聰さんの自己紹介から講演はスタートした。講演者が長年にわたって研究を進められてきた部落史を中心にして,「教科書を活用する部落問題学習プラン」を作成され,現在の小中高の社会科教科書に掲載されている全8項目にわたる部落(同和)問題に関する記述について,内容的には問題も多いが,教育現場で取り組んできた積年の成果を踏まえて,継承しつつ問題箇所を改善して活かし位置づけることで,教科書に準拠しつつ,かつ系統的で多方面な学習へと発展させるプランとして紹介された。
講演の前半では,「正しいことは残る。間違いは消え去る。」という上杉さんの信念に基づいて,教科書で取り上げられた部落(同和)問題に関する8項目の内容は,修正して使うべきであると主張され,正しい記述もあるが間違いがあることも認識して,部落の児童・生徒が下を向いてしまう授業ではなくて,顔を上げて目を輝かせる授業へと転換する部落(同和)問題学習にしなければいけないと力説された。上杉さんの主張としては,@安易な「思い込み」と「思いつき」をまず払拭しなければならず,間違いが多い過去の授業スタイルと教科書記述を正しく改めなければならない。A教師の学び直しに力点を置き,1年間に数項目程度から始めることが重要で,系統的な学習の積み重ねこそが,「上書きされる差別意識」の克服に欠かせない。と講演をすすめられた。
中盤からは,「差別の4側面」についてホワイトボードを使って図式で説明され,部落の中に差別に対して能動的に差別の解消に向けて働きかけようとする「+(プラス)」の姿勢と,世間からの否定的な指摘に対して受動的に差別の解消を見出すことが出来ない「−(マイナス)」の姿勢が生み出されるように,世間の中にも差別を否定的に捉えて差別の解消を見出せない「−(マイナス)」の姿勢の人と,積極的に差別の解消に向けて世の中を変革して差別を克服しようとする「+(プラス)」の姿勢の人とに分かれることで,差別の解消に向けては,どちらの立場であっても「+(プラス)」の姿勢をもつ人を増やすことが必要で,そのためには正しい認識に基づいた部落(同和)問題の学習によって,その「+(プラス)」の姿勢をもつ人を増やすことが大切であると説明された。
中盤から後半にかけては,8項目のうち『庭造り』『水平社』『日本国憲法』の3項目についての学習プランをもとに,実践での学習のすすめ方について解説を交えながら説明をされた。
『庭造り』では,室町時代の当時は「河原者・屠者・穢多」は,同じ人を指し示す別の名称であって,困窮者は無税地の河原に住み,洪水などの危険な場所であったために,動物(鳥など)を捕って食べていたことが,残酷で穢れがあるとされ,「こわい」などの差別を生み出していた事実を『天狗草紙』の挿絵などを提示して説明された。庭造りをする人々を「高い技術者だから差別された」かのように教科書で記述されていることは誤りで,善阿弥の孫である又四郎が差別に対する抗議を表明している『鹿苑日録』の周麒の記述からも,「又四郎は,屠者の家に生まれたことを心からつらく悲しく思い,動物の命を奪わないと誓い,物を盗むと言われたりするので,物やお金をほしがらぬようにしているという姿を見て,周麟は又四郎こそ本当の人間だと賞賛し,当時の僧侶の振る舞いに及ばないし,恥ずかしいと感じ,善阿弥の跡継ぎとして天下第一と賞賛した。」ことを指摘された。さらに,
8代将軍足利義政が,「河原者の庭木検分を拒否した奈良の諸寺院に怒り,荘園を没収された」とい
う『後法興院記』の記述にふれ,差別を許さず,能力を正当に評価したことと,差別者をこらしめた
ことの意義を説明され,そのような又四郎の姿と足利義政のような行動がなかったら,世界遺産はで
きたのだろうか?と児童・生徒に問うことで,理解は深められることを主張された。
『水平社』では,上杉さんが監修されているDVDの映像を交えながら,児童・生徒へのアプローチとして,皆さんは「差別する」の反対語は何だと考えますか?という問いを投げかけることで,西光万吉が目指した水平社宣言で最も伝えたい『人間は尊敬すべきものだ』という考えに導くことができることを説明された。また,生徒作文の「リスペクト アザース」を用いて,生徒のアメリカでの経験から考えたことや,日本の現実との大きな違いを考えさせることで,なぜ「リスペクト アザース」が大切なのかを考えさせると良いと紹介された。
『日本国憲法』では,日本国憲法第14条にある「差別の禁止」に関する条文で,部落差別に該当する項目は何かを,児童・生徒とともに確認し,「社会的身分」がそれにあたり,「法の下の平等」とは,かつて「身分ごとに異なる法」があったことを,「渋染一揆」や「七分の一の命」などの実例で想起させることができることを紹介された。また,第13条で基本的人権の中に,他の問題の差別の禁止が説明され,第13条の原文に「respect」の語が使用され,日本語訳として「尊重」が用いられたことが紹介された。
講演は約120分にもおよび,休憩をはさんで,フロアの聴衆からの質疑応答にうつった。
あらかじめ,質問者は3項目ごとに「小同研」「中人研」「解放同盟京都市協」の三者から以下のような質問を,上杉さんに投げかけた。
@
「小学校では,歴史学習の室町時代で初めて『身分のうえで差別された人(庭造りでの活躍)』に出会います。全8時間の同和問題指導で,室町時代の差別が現代にまで続いているということを学んでいます。
A
水平社宣言を使って生徒に学習を進める時に、
B
日本国憲法の第14条で,「社会的身分」とされていることは,部落差別の意味だと捉えて,「同対審答申」が出されたり,「部落差別解消推進法」ができたりしたと理解していいでしょうか。
また,日本国憲法第14条で保障されている【法の下の平等】に反する実態として,部落差別が現存し,その解消のために「部落差別解消推進法」が制定されたと考えますが,この推進法が制定される経緯と,部落差別解消に向けて上杉さんが最も重要視することは何かを伺いたいと思います。
@
についての応答
部落差別の始まりは室町時代ではない。鎌倉時代中期の『塵袋(ちりぶくろ)』の中に「エタ」「非人」という言葉が出てきており,差別・排除を受けた人としたものとして書かれている。「屠者」という言葉も出てきており,「屠者」=「エタ」とも書かれている。中世歴史研究者は,平安時代中期に「屠者」という形で差別が始まっていると考え,そこが部落の基準点だと考えている。「河原者」という表現は比較的新しく,婉曲的な表現である。室町時代,善阿弥は当時日本一の庭師であり,「エタ」という言葉が非常に厳しい表現であることから,言うのがはばかられたため「河原者」という表現が使われたと考えられる。
部落の始まりは京都であると考えられる。権力が部落を作っている。室町時代以前,権力の中心は京都にあり,京都を中心に部落ができている。九州にも多いのは京都の派出所が大宰府としてあるからである。京都と結びつきの多いところに部落ができている。
A
についての応答
「差別する」の反対語は何かという問いが必要なのではないか?「差別」の反対語は「平等」とすぐに出てくる。しかし動詞で考えさせると子どもたちは自分で色々な言葉で考え,子どもたちが手探りで明日から今日から何をしたら良いかを考える。一つの考えとして「尊敬する」という言葉を提示してもよいのではないか。そして,水平社宣言が身近な問題として捉えるようになると授業が面白くなるのではないか。そして,「リスペクトアザーズ」「お互いにいいところを見よう」ということを日常的に意識させることにつなげていけるのではないか。
日本国憲法ということから考える際にも,憲法の中に「リスペクト」という言葉が使われている。日本国憲法第13条に「すべての国民は,個人として尊重される。」とある。水平社宣言の「人間は尊敬すべきものだ」という理念が盛り込まれている。部落差別にとどまらず,障害者差別・女性差別・LGBT差別・民族差別など,あらゆる差別の反対語は「個人として尊重される」ということではないか。
B
についての応答
部落差別解消推進法の主導は外務省ではないかと考えている。人種差別撤廃条約について「世系」という言葉で外務省が意図的に誤訳をして世界中にばらまいた。国連人種差別撤廃委員会から2度もおかしいと勧告を受けている。部落差別も入るのではないかと日本は国連の場で追及されている。これまでの解放運動が控えているということで,これ以上運動に火をつけないように「世系」としたことのぼろが出てきている。本来,decentの訳を日本の法律で言うならば「社会的身分」として,部落差別は憲法違反であり,人種差別撤廃条約の中にも明確に書かれているとすることが大事である。このことが本格的に明らかになることを恐れて,外務省が追及されないように部落差別撤廃条約を作ったに過ぎない。
日本政府は,人種差別撤廃条約に部落差別が含まれることをまだ認めていない。これを認めさせれば差別禁止法を作らざるを得ない。法文を巡って,少数の学者でもいいから解放同盟でチームを作って国会質問をやらせれば勝てると思う。社会的身分を人種差別撤廃条約の中に入れ込むことで,もっといい法律ができると思う。
質疑応答は3点で締めくくり,分科会の責任者である東原幹人さんから上杉聰さんへの御礼の言葉と,
来年度の第53回大会への参加をよびかける形で,分科会を閉じた。
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