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第49回人権交流京都市研究集会

第2分科会

 共生社会と人権

「奨学金問題から見る若者の貧困と教育保障の現状」

 尋源館101教室

                  

第1部 報告  13:30〜15:35

報告 1  中野加奈子さん

        (大谷大学准教授)

   報告 2  北村祐司さん

        (労働者福祉中央協議会事務局次長)

   報告 3  金光敏さん

        (コリアNGОセンター事務局長)

  

第2部 パネルディスカッション 15:45〜16:25

  コーディネーター  桜井 淳さん

               (特定非営利活動法人シンフォニー)

  

担当団体      京都・東九条CANフォーラム

協力団体      反貧困ネットワーク京都

           (特活)コリアNGОセンター

分科会責任者  朴 実 

 

京研集会第2分科会報告

 

49回人権交流京都研究集会第2分科会は、前年の「子どもの貧困」を引き継ぎ「奨学金問題から見る若者の貧困と教育保障の現状」をテーマとし京都・東九条CANフォーラムの主管で、反貧困ネットワーク京都・(特活)コリアNGОセンター両団体の協力により開催された。奨学金問題とは「借りたものを返すのがあたりまえ」という「自己責任」の問題などではなく、問題を放置すれば格差の拡大や貧困の連鎖、さらには社会的損失をも招くことに焦点を据えて分科会が設定された。そして「討議の柱」の第1では奨学金問題の現状はどうなっているのか、奨学金制度と返済制度の実態・学生の貧困化や奨学金の変容を知ること、第2に奨学金問題の改善に向けた当面の課題を返済負担軽減・返済困難者救済・学費軽減等の取り組みに繋げて考えていくこと、第3に学費の「親負担主義」が限界となっている現在、教育費は誰が負担すべきなのかという高等教育の社会的意味を考えていくこと、第4に差別の再生産や貧困の連鎖を断ち切るために、また国籍・民族・身体的条件の違いや経済的格差に基づく教育機会の不平等を解消するために何をなさねばならないのかの方策を考えることの4点が挙げられ各分野の方々から報告を受けて分科会が持たれた。 

返済当事者から「奨学金問題」を考える

大谷大学准教授中野加奈子さんからは、奨学金返済当事者であるとともに学生に身近に接している立場からの報告が行われた。大谷大学では学生の約40%が奨学金を受給しており借りることが普通になっているが、授業料の金額を聞いても答えられない学生も多いとの現状が紹介された。また奨学金問題は世代間での認識の違いが大きく「教育費は親の責任」「借りたら返すのが当然」「なんで借金をしてまで大学に行くのか」「私たちのころは〜」と考える者も多数存在していると指摘した。中野さん自身も短大〜大学院で奨学金を利用し返済に苦しめられた経験を持っているが、なぜ学生は奨学金という名の教育ローンを利用せざるを得ないのか。中野さんはその理由の第1に大学生の収入が減っていることを挙げた。大学生の家庭からの給付(仕送り)の平均を見ると2002年の155万円が2014年には119万円と37万円のマイナスとなり、その仕送り分カバーのために奨学金を借り必死にアルバイトをする学生の現状が奨学金利用率の上昇につながっていると説明した。理由の第2に学生の支出増を挙げた。国立大学の授業料は1975年に36000円だったものが2015年には535800円と14.9倍となっている。また私立大学でも182677円が864384円と4.7倍となっている。この間物価は約2倍であることを考えると異常な上昇率であることがデーターで示された。また1996年に781万円あった児童がいる世帯の平均年収が2015年には707万円になるなど、大学進学率が50%を超える時代に、高騰する学費を吸収しきれない家庭の窮状を指摘した。

次に中野さんは旧日本育英会が1984年に利子付き貸与型奨学金を開始したことが現在の奨学金問題の出発点となっていることを指摘した。日本学生支援機構(旧日本育英会)は学生の3人に1人の学生に貸与しており、昼間学部生では37.2%となっている。そして学費が高騰し学生の収入が減った結果、有利子型の利用が増加しピーク時は70%を占めていた。借入額平均は無利子型で237万円有利子型で343万円となっているが、高校から大学院まで借入し総額1000万円超のケースもある。貸出時に日本学生支援機構は返済シュミレーションを示し「借りすぎに注意」と呼び掛けている。しかし非正規労働者が4割を超え雇用が不安定化し初任給が減少している中で若者の奨学金返済が困難になっている。本人が返済できないときは連帯保証人や保証人に請求が行くことになる。それを避けたければ保証会社を利用することとなるが、学ぶための奨学金に高額の保証料を払わねばならないのが現状であると批判した。中野さんは本年4月から本格的に開始される給付型奨学金に関し、対象者が住民税非課税世帯の学生のうち1学年2万人にしかならないこと、また給付額が24万円では生活が出来ずアルバイト漬けになる恐れがあることも指摘した。次に中野さんは現在奨学金返済に苦しめられている若者の救済に関して触れた。日本学生支援機構にも救済制度があるが、労福協の返済当事者アンケートで30%が知らないと答えており、延滞金を課せられたものに限れば80%が知らないと答えている。日本学生支援機構は救済制度を周知徹底し、無理なく収入に応じた返済ができる仕組みを作って現在返済中の者にも選択ができるようにするべきだと提案した。また海外の事例では返済期間の打ち切り制度を持つ国もあるが、検討に値するのではないかと提案し報告を終えた。

奨学金制度の拡充・改善に向けて

中央労福協事務局次長北村祐司さんの報告は、長年多重債務問題・貧困問題に取り組んできた労福協の活動の延長上に奨学金問題があったと運動の経過を述べることから始められた。

労福協が2015年に行った奨学金に関するアンケート調査によると、35歳以下の奨学金返済者の借入額は平均313万円、返済月額は17000円程度。毎月の返済が苦しいと回答したものは正規労働者で37%、非正規労働者で56%となっている。また奨学金返済が生活設計に影響を及ぼしている比率は結婚が31.6%、子育て23.9%・出産21%となっているが、特徴的なことは年代が若くなるほど負担感が強まる傾向にあると述べた。この事は従来の日本型雇用形態(年功序列賃金・終身雇用・企業内福祉等)が破壊され、結婚・子育てが出来ない層が出現しているということであり、少子化に歯止めをかけて持続可能な社会にするためにも奨学金問題の改善が必要であると提起した。

また労福協のホームページ上に、奨学金返済を抱えた若者が生活するうえでいかに苦労しているのか紹介されているのでぜひ見てほしいと呼びかけた。その中では「奨学金を返済中のため相手の親に結婚を反対された」(25歳女性)「大学に進学したいが奨学金を利用せざるを得ず反対されている」(高校生女性)「手取り給与の3分の1を返済にあてており将来の見通しが立たない」(30歳男性)等の現状が紹介されているとのことである。 

201516年労福協は、給付型奨学金創設、現状の制度改善の署名集めを全国で行っている。結果は署名数3038千筆を集めるという成果を生み出している。そして2016年に取り組んだ「給付型奨学金創設を求めるアピール」には4987団体賛同・7023人の個人賛同さらに147人の国会議員の賛同を得ることで運動が大きく前進した。そして2017331日に改正日本学生支援機構法が成立し、給付型奨学金が創設されるという成果を得ることができたことが報告された。

その上に立ち今後の課題に関して北村さんは次のように述べている。第1に今回の成果を契機に現在の貸与型から給付型へ奨学金制度自体の拡充・改善を図り、対象者・給付額の拡大が必要であると述べた。昨年4月に児童養護施設出身者等2800人が先行実施され本年4月より2万人を対象とした給付型奨学金が開始されるが、対象者が限られているため、受給の推薦基準のハードルが高く、日本学生支援機構の「給付推奨学生推薦ガイドライン」の見直しなど運用の改善も必要であると述べた。第2に「貸与型奨学金は無利子であるべきことを踏まえ…有利子から無利子への流れをさらに加速すること」(20173月国会付帯決議)を踏まえて、現在の日本学生支援機構の奨学金利用は2018年度予算事業費ベースで65%が有利子の貸与型だが、当面無利子の奨学金貸与が有利子を上回るように要求していきたいと述べた。第3に現在奨学金を返済している者の負担の軽減と返済困難者の救済策の拡充も必要であることを指摘した。多くの若者が奨学金返済に苦しんでいることを考えると、現行救済制度の周知徹底はもとより2017年度から導入された所得連動返還型奨学金制度(年収ゼロでも月額2000円を返済させる)の再設計、返済猶予期間の延長・延滞金賦課率の引き下げ・返済金充当順位の変更等を提案した。また第4に学費の軽減に関しても提起された。従来からОECD諸国と比較して日本の高等教育への公財政支出の少なさが指摘されており、国立大学運営費交付金や私学助成の拡充で学費の引き下げを図るべきであると提案した。また学費減免の大幅拡充を図り将来的には大学授業料無償化の議論も深めていく必要性を指摘し報告を終えた。 

日本版「ドリームアクト」の導入を

最後の報告は在日外国人児童・生徒の教育権保障に取り組んできた(特活)コリアNGОセンター事務局長金光敏さんが行った。大阪の「Minamiこども教室」実行委員長を務めながら滋賀県のブラジル人学校の教育権保障に取り組んできた金さんは、在日外国人の子どもたちの多くは大学進学以前の現状であることを前提として報告をしたいと述べた。

20176月現在の在日外国人数は250万に達しており、一昨年の236万人と比較し大幅に増加している。在留者の国籍別では、1位が中国で韓国、ベトナム、フィリピンと続いているが、京都の学校教師の感覚ではフィリピン人の多さが実感されているのではないかと指摘した。在日フィリピン人は女性が圧倒的で、8090年代ジャパユキさんとして入国し在留を継続しながら子育てをしている方々が多いが、この問題も日本の人権状況を示している例といえる。現在増加しているベトナム人は研修生・留学生資格での入国が圧倒的だが、自分が住む大阪生野区でも急増している。何故かというと生野区には中小・零細企業が数多くあり、圧倒的に人手不足・後継者不足に悩まされており、ベトナム人が中小・零細企業の次世代を担っているからだ。しかし労働力として受け入れられながら、人権はもとより労働基準法すら守られていないと批判を受けている。私が子供のころ親世代や親類に工場の機械で指を切断した人が多かった。安全を図るための投資を惜しんだためだが、まさに現在のベトナム人がその危険な現状を強いられていると金さんは指摘した。また同じ仕事をしながらも日本人との賃金格差が大きいのも、言葉が不要な単純作業が中心なためこうした格差が生み出されやすいからだと述べた。日本政府や経済界は外国人労働者の受け入れ拡大を図っているが、彼らは労働者であると同時に生活者でもあり使い勝手ばかり考えることは絶対にダメだと現状の問題点を指摘した。

金光敏さんは在日コリアンの教育権保障の活動をメインに行ってきたが、現在は滋賀県愛荘町のブラジル人学校の支援にも取組んでいることが紹介された。滋賀県の彦根市から愛荘町にかけては基幹産業の部品下請け工場が多数あり、そこで働く労働者は派遣のブラジル人が多い。現在の日本は単純労働外国人を受け入れないが、労働力は不足しているのが現状だ。その解決策の一つとして、日系南米人を定住者として受け入れる施策が1990年代から開始された。ピーク時には約38万人が定住していたが、2008年のリーマンショック時に帰国費用と一時生活費を出して日系南米人に帰国を強要した結果今は3分の1になっている。在留する日系ブラジル人2世は第2言語が日本語で3世ともなると日本語しか話せなくなり、親世代との会話が理解できなくなる。ブラジル人学校の集まりに出たときに「日本で10年生活してきたが、日本人にはなれなかった」との発言を聞いたが、日系人はいまだ日本社会のメンバーシップに入れないのが現状だとも述べた。金さんはブラジル人学校の教え子から「源泉徴収票ってなんですか」と聞かれたことがある。大学進学のため日本政策金融公庫の教育ローンを借り、生活費として日本学生支援機構の貸付型奨学金申し込みのため源泉徴収票の提出をもとめられたが、父親は派遣会社を転々としたためどこに請求したらよいかわからないケースだった。この子は「やはり進学は無理ですよね…」と断念しそうになったが、「絶対にあきらめたらあかん!」と励まし一緒に動いて源泉徴収票を取ることができた。このケースでも学校側のサポートはなかった。

学校は情報提供やガイダンスをしていますというが、外国人家庭はそれだけでは動けない。日本人生徒と同じ関わりでは不十分で、誰かが寄り添ってサポートせねばならないことを金さんは強調した。併せて現在日本の高校進学率は平均98%だが、外国人生徒の進学率はいまだ65%と推定されること、日本学生支援機構の奨学金を利用しようとしても学校教師の寄り添った支援がない現状のなかでは申請書類作成も出来ず、教育権が保障がされていないのではないかと指摘した。金さんはなぜ在日コリアンがブラジル人学校に関わるっているのか問われたとき「怒りです」と答えると述べた。生野で育ち理不尽な思いを強いられた在日コリアンの一人として、在日外国人児童・生徒に同じ思いをさせたくない、今後も教育権保障の活動を続けていくと表明してその報告を終えた。

2部はシンポジュウム

分科会の第2部は、学習支援に取り組むNPОシンフォニー桜井淳さんのコーディネートで、会場からの質問も交えながら各報告者とのシンポジュームが行われた。会場からは日本学生支援機構の貸付型奨学金のT種・U種の違い・申請条件等の内容を教えてほしいとの質問が出る一方で、奨学金返済者の困難さを知って驚いたが相談窓口はどうなっているのかとの質問も出された。また学生は衣類やスマホ等に支出をしながらなぜ奨学金を借りるのか、なぜそこまでして大学に行くのかといった本質的な質問も出された。報告者からは現行奨学金制度内容の説明が再度行われると同時に、周囲と違った持ち物・服装をすることが相当な勇気を必要とする学生の置かれている現状説明も行われた。

その後コーディネーター桜井さからは、奨学金問題を通して高等教育を受ける意味のとらえ返しが必要ではないかとの問題意識が提起された。また金光敏さんからは、学費をあげ建物・設備に金をかけながら非常勤教師が増加している大学のレベルの低下が問題ではないかとの指摘がされた。北村祐司さんからは、高等教育学費の公的負担を増やす一方で大学の在り方や学び方を考え直す必要があるのではないかと提起された。中野加奈子さんからは、まずは現状の奨学金問題をどうしていくのかを考えながら教育の在り方について時間をかけながら考えていきたいと表明された。奨学金問題の論議により若者の貧困問題と教育権保障の現状が明らかになるとともに、解決に向けた今後の課題も浮かび上がってきた。また在日外国人児童・生徒の教育権保障・支援活動も待ったなしであることが確認され分科会は終了した。

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