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第47回人権交流京都市研究集会
◆ 第1部 報告 (13時30分〜15時)
報告1 山下幹雄さん ホーム・光顧問 北海道大学名誉教授 立命館大学前客員教授 京都光技術研究会会長 光倶楽部世話人代表
報告2 姜直子さん NPO法人アジアの希望300副理事長 宗教法人京都宣教協会副牧師 東山区社会福祉協議会ボランティア実行委員 京都市多文化施策審議委員(2013〜2014)
報告3 谷本千里さん きょうと夜まわりの会 いのちのネットワーク NPO法人ゆいの会
報告4 石川久仁子さん 大阪人間科学大学 日本居住福祉学会関西支部長
第2部 パネルディスカッション 15時10分〜16時10分
分科会責任者 朴実 (京都・東九条CANフォーラム代表) 司会進行 金周萬 (京都・東九条CANフォーラム) 記 録 宋基和 (京都・東九条CANフォーラム) 庶 務 小林栄一(京都・東九条CANフォーラム)
京研集会第2分科会報告
今年の第二分科会は「人と人を結ぶまちづくりから多文化共生を考える」をテーマに開催されました。在日コリアン集住地域である東九条では、民族差別を許さず人権を擁護する運動が培われてきたと同時に多くの個人・団体による「多文化共生のまちづくり」が行われてきました。現在の東九条では在日コリアンの高齢化が進む一方、ニューカマーの増加という新しい「多文化共生」という局面を迎えています。また東九条は生活困窮者が集住する地区という側面も併せて持っており、多くの住民・支援団体が協力し、住環境の整備に取組み、医療・保健・福祉のネットワークが形成され、東九条独自のセーフティーネットが築かれてきました。そうした現状に即し、地域に根を下ろした「多文化共生」をどう構築するのか、「共に生きるまち東九条」をどう作っていくのかという問題意識で開催されました。 第1部の冒頭で京都・東九条CANフォーラム代表の朴実さんから、東九条は在日コリアンが一番多いまちで、長く共に生きるまちというテーマでまちづくりに取り組んできた、長い間東九条は「怖いまち」と言われてきたが、それを逆手に取って、新しいまちづくりを描いていきたい。共に生きるまちとはどういうまちなのか、多文化とはどういうものなのかというのをみなさんと共に考えていきたいと述べられました。その後4名のパネラーから約20分ずつ報告がされました。 最初に大阪人間科学大学の石川久仁子さんから「東九条・京都における新たなまちづくりは可能か」〜全国の居住支援型社会的企業をから学ぶ〜をテーマに報告されました。石川さんは東九条のまちづくりに関わっていく中で東九条が抱えている様々な問題を知り、誰もが暮らしやすいまちづくりを東九条で考えたいと思って取り組んできたこと。そして多文化の問題、高齢化の問題、低所得の問題があるが、鴨川と高瀬川添いの堤防に建てられ、いわゆる「不法占拠地区」とされた40番地の問題に関わる中で、住環境の問題が根幹にあると指摘し、また、東九条では居住の問題、生活の問題を抱えてきた人々を支えるような新しい取り組みが展開されてきたこと。40番地が現在は東松ノ木市営住宅に立て替わったり、東九条の4か町では、地域・多文化交流ネットワークサロンで、地域福祉、いろんなサークル活動や多文化を支援するようなプログラムが展開されてきて、また民生委員ではカバーできない課題を担う外国人福祉委員を制度化した京都外国人高齢者障害者生活支援ネットワークモアといった多様な活動が展開されてきていること。そこからもう一歩進んで何かできないかということ出てきてきたのが、「居住福祉」という考え方を基本にした居住支援型社会的企業という発想で、家族をはじめとする様々なつながりと住まいを失った人(ホームレス)の支援の現場から積み上げられてきた実践、住宅確保と生活支援、コミュニティ支援をやりながら、街の再生と個人の再生を同時に行えるような面白い取り組みが全国的にも行われていて、こういったものが東九条でも行えるのではないかということ。昨年、東九条CANフォーラムで「共に生きるまち東九条」学習会2回を開催し、東京の「自立支援センターふるさとの会」の滝脇憲さんから「四重苦を生きる人たちを支える」、岡山の岡山入居支援センター及び阪井土地開発株式会社の阪井ひとみさんから「精神障害者の地域生活を支える」というタイトルで講演と地域の実践の報告という形で行ったことが報告されました。 この二つの学習会から見えてきたのは、実は東京の山谷で取り組んできた問題、岡山で取り組んでいる問題は東九条にも非常に深くあり、でもそれは東九条だけではなくて、京都市全体で非常に増えている問題である、居住困窮の様相は多様化し、あらゆる地域に拡散しているということ。四重苦、五重苦を抱える人たち、中でも精神障害を持つ人、認知症の人の居住は特に問題で、そしてそれらの人々が住み続ける、共に生きるまちであるためには、居場所や相談する場所、ケアの拠点、根幹にはその人の状況に応じた住まいが必要で、東九条では柔軟に使える民間物件が少ないなど限界もあるが、古い住宅でも活用でき、新しい取り組みができる。そして住まいを確保するには不動産の可能性は非常に大きく、その不動産業者の協力、とりわけ大家の理解が必要。東九条では生きづらさを抱えた当事者や支援者がお互いに声を掛け合って生活してきた良さがあり、そういったものを東九条だけではなくて京都市全体に広げていくことが大切。そのためには当事者たちではなく、NPOや行政、自治会など他人同士だけどつながりのある居住空間、生活空間をどのように広げていくか、そのような居住支援ネットワークを東九条、そして京都全体に広げていく必要があるのでないか。それが「共に生きるまち東九条・京都」につながっていくのではないか、という話をされました。
次に「ホーム・光」を設置運営し、中国人留学生を支援しながら地域住民と繋がろうとする山下幹雄さんから、「人と人を結ぶ地域の場としての空き家の活用」をテーマに報告されました。東九条が“多くの留学生、空き家と一人暮らしの高齢者の増加、障害者の孤立、若者や子どもの急激な減少”と“多くの在日韓国朝鮮人の人たちの暮らしの問題や被差別部落問題の解決のために長年に渡って取り組んで”きたまちであり、そういった東九条で留学生と町内外の人たちとの暮らしを通して交流し、学び合い、助け合える関係を創ることをねらいに設置したこと。広さ・防火・既施設との距離などでうまくいかなかったが2015年1月に京都市地域・多文化交流ネットワークサロンの方と出会い、アジアの希望300の留学生のNPO活動している方と出会い、実家を改築して始めることができたこと。近隣との日常挨拶や両者の貰い物、一人高齢者の手助け・町内会の参加や近隣高齢者のための健康サークル等、市民との交流・学び合い、定期共助茶話会などの地域との交流があり、今後の課題としては一人ひとりの実態に合った公助・共助・自助のきめ細かい最適解を創っていくこととして、一つ目に空き家の問題として、1)地域の需要者と供給者とを結ぶ公的能動的情報収集PR機関の設置と能動的コーディネーターの配置、2)リフォーム経費の公的援助制度、留学生の家賃の公的援助、市営住宅の空き部屋、空き店舗・廃校の活用、3)第三者保証人機関の設置と礼金適用外制度の実施、二つ目に地域の問題として、町内会や役員、地域NPOとの関係を広げ、理解を深めていき、関係性を点と点から面的なつながりにしていく必要性が語られました。 次にNPO法人アジアの希望300の姜直子さんから活動の内容を報告されました。法人設立のきっかけは、教会の活動、毎週150名の人が集まるがその90%が外国籍で、その80%が留学生。夢と希望を持って来日した彼らの生活の苦労、困難を目の当たりにして、留学生支援のNPO法人を設立しようとした矢先に近隣で2件の孤独死があり、それをきっかけに一軒一軒の家庭訪問から始め、徐々に高齢者や障害者など孤独な人たちが集まり、お茶を飲み、話をするようになり、集まった人たちが生きがいや希望を持てるようにと始めたのが「心と体の健康サークル」で、そのようにして設立されたこと。活動は留学生の生活支援(シェアハウス、アルバイト紹介、支援バザー、異文化交流会、運動会等)から地域との共存(鴨川河川敷や近隣の掃除、地域ボランティア、高齢者のお手伝い、心と体の健康サークル、地域子ども見守り等)など多岐にわたること。これからの希望、課題としては、130名前後の若い留学生が集うので、文化や習慣の違いなどで、騒音やゴミ捨て等近隣とのトラブルもあるが、解決のために近隣の方と話し合い、規則を決め改善をしていくことで、留学生たちが「共存する」ことを学んでいる。地域住民との摩擦がありながらも理解が進んでいくことを通して、教会とNPOの働きが地域と留学生、外国籍の方を結ぶためにできることがたくさんあることを教えられている。まとめとして多文化共生、人と人とのつながりを意識して活動してきたわけではなく、目の前にある問題を解決しようとしてやってきた結果、人と人がつながり、共生していることに気づいた。これは人が生きていくために当たり前で欠かせないことなのに、それができにくい現実があることも気づいた。ということを述べられました。 最後に、困窮者の「路上における支援」と「居宅における支援」をテーマに谷本千里さんから報告をされました。活動は大きく分けて一つ目に、主に路上生活を余儀なくされた人々への支援(夜回りの会)として月・木曜日に四条通やJR京都駅周辺を回り、路上生活者にお茶と毛布、カイロ(冬)等の配布をしていること。二つ目は居宅生活を始められた人々への支援で、専門家による法律相談や保証人の斡旋など京都自立支援バックアップセンターと、「きょうといのちのネットワーク」訪問活動と居場所づくり。三つ目に路上と居宅生活の専門的な支援。活動の中心は「のぞみの会」という当事者の会への協力で、毎月1回炊き出しとか、創作活動や行政交渉など、もちつき大会、亡くなった仲間をしのぶ会、花見やクリスマス、自立に向けた支援協力も行っていること。居宅の人は現状としては孤立化していて、地域、家族、行政とのつながりが乏しく、関係が気づきにくい。定期的な訪問活動でつながりを構築し、生活相談を受け、専門家につないだり、連携する。週2回の通所デイや週1回の土曜サロン、イベントなどを行い、高齢者、生きにくさを持った方、女性などが来れる居場所づくりを目指していることを述べられました。
休憩の後の質疑応答の前に、京都市国際化推進室阿嘉課長から2014年に改定された国際化推進プランについて話されました。サブタイトルに「多文化が息づくまちを目指して」とつけている通り、プランの中では多文化共生の推進を大きな目的の一つにしていること。多文化共生に関する取り組みは大きく分けて3つ、コミュニケーションの支援、生活支援、多文化共生の地域づくり。一つ目のコミュニケーションの支援については多言語化、多言語での情報提供、相談事業の充実化、日本語学習の支援、日本の社会に対する学習機会の提供、2つ目の生活支援は、教育、子育て、福祉、医療、防災、危機管理などあらゆる場面での情報提供、通訳派遣の事業、3つ目の多文化共生の地域づくりは、外国籍市民の社会参加、意識啓発など。また多文化施策審議会という場もある。京都市地域・多文化交流ネットワークサロンについては、住環境、生活実態に課題を抱えていた地域であるというような地域事情を踏まえて、多くの外国籍の市民の方とかいろんな団体が地域福祉、それから多文化共生に向けた自主的な活動をされてきた地域実態があり、このサロン事業については自主的な活動実績を踏まえて多文化共生、地域福祉にかかる団体と連携していわゆる全市的な取り組みに広げていこうということで平成23年から始まったということ。国際化推進プランの中にもサロン事業も入っている。今後多文化が息づくまち京都を作っていくためにこういう事業を活用して取り組みを進めていくことにしているが、今年の4月からこれまで地域福祉が担当していた事業について、国際化、多文化共生という観点から国際化推進室の方で、福祉の部局とも連携しながら担当してことになっていること。今後この事業を通じて各地域での多文化共生に取組みが活発に進められるようにいろんな先進的な取組みを発信したり、コーディネーター役を果たせるような人材育成の推進を通じて各地域の取り組みを進めていきたいということを述べられました。 そして質疑応答の後、石川久仁子さんから分科会のまとめとして、外国人の方というのは居住弱者で、居住弱者である外国人が住むところには確実に他の居住弱者の方も暮らしている。多文化の方々、一人暮らしの高齢者、元ホームレスの方であったり、精神障害をもつ方であったり他の居住弱者の方も暮らしている。外国人が共に暮らすまちというのは本当に多文化の問題だけではなくて、障害の問題、孤独者の問題、一人暮らしの高齢者、そういった方々と共に暮らしていく、支えるのが共に生きるまちづくりであること。つまり共に暮らすということは、それぞれの事情を理解しながら関わり合う必要があるが、本当に大変な事情があるので、様々な取り組みが必要になってくると述べられました。さらに今日話しされた山下さんが一市民の立場から、そして姜さんはNPOまた牧師さんというお仕事の立場から、また谷本さんはNPOであったり、居宅活動という立場から一人ひとりの実態にあって、最初からそうしようとしていたわけではなくて、非常に困られた方々と出会った中でいろいろな取り組みを作っていったというのが実態であること。その中は必ず市役所や福祉事務所、東九条であっても福祉施設や自治会など既存の機関、公的な力があり、そういったものが重なり合っていく中で互いに協力して力を発揮していくとともに、産業の力、市場の力というもの必要であること。今問われているものは新たな活動の場所、まさに今日の山下さんと姜さんの話で山下さんのお宅があること、それを活かすことによっていろんな可能性が広がっていったが、それを実現していくにはやはりいろんなサポートが必要で、そこに改めて公的な力とそこにもう一つ産業の力を加えていくのが非常に重要だが、やはり資金的な面で頭打ちになってしまう。すぐには利益は出ないが長期的には利益はいかなくても損をしないような事業化というようなものが必要なのではないかということ。その部分は何らかの公的なサポートが必要だが、居住支援の活動団体が東九条で多文化の非常に重要な取組みをすると、非常に特別扱いされるという難しさがあり、東九条の取り組み、多文化の取り組み、そして人権の取り組みというのは非常に特別なものであって、普遍的なものではないという扱い方を、非常に矮小化されて扱われるということが多い。そうではなく、東九条が持っている問題はすべての京都市に広がっていること。低所得の高齢者の一人暮らし、しかも認知症、がんを患っている人は京都市中にいる。多国籍の方もすべているのだから、東九条的な活動というようなものを、問題を京都市全体でとらえて、それを公的に全体で解決していくという取り組みに転化していくことが必要でなないかということ。そのためには公に任せるのではなくて、釜ヶ崎で行われているような「まち再生フォーラム」という集まりのような、行政関係者と福祉関係者と市民、当事者がざっくばらんに話し合えるような場所がやはり京都にも必要ではないか、そういったものを作るきっかけ、そういったひとつの場に東九条CANフォーラムもなれたらないいと思っている、と最後に締めくくられました。
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