福島の今、日本の今、子どもたちに手渡せる未来
講師 志葉 玲(ジャーナリスト)
今日は大きなテーマで話をさせてもらいます。今回の話のテーマとしては、この間福島の取材を続けてきた立場から、子どもたちに未来を託す上で、大人たちの責任と課題ということで話していきたいと思うんですが、あくまでも私が取材してきた狭い範囲の話になることはあらかじめご了承下さい。
早いもので3.11福島原発事故から3年がたとうとしています。今年、各電力会社は原発再稼働ということで非常にやっきになっていますが、原発事故で何があったのかということは、もう一度冷静に見てみる必要があるのではないかと思います。
今年の1月に、海外の友人のジャーナリストに請われて福島に行ってきました。ここは、南相馬の被災した地域です。主な被害はやはり津波で、家が流されています。ここは原発から20キロ圏内で、お子さんを二人亡くしてらっしゃるウエノさんという方に取材しましたが、今考えても辛いのは、すぐに子どもたちを探すことができなかったと。自衛隊もなかなか来ることができず、原発事故から1ヶ月くらいたって、やっと200人規模の部隊が来たけど、1度の捜索で次のエリアに移って行ってしまった。ですから、仲間の消防団の方とその後も捜索を続けて、40人くらい遺体を発見されたそうです。その中に娘さんの遺体はあったわけですが、3歳の息子さんの遺体はまだ見つかっていない。だから今でも、毎週土日、捜索を続けてらっしゃる。また、ウエノさんの妻は妊娠して避難されていたので、結局娘さんの最後、火葬にも立ち会えなかった。それについて、東電は本当に妻に謝ってほしいと言っておられました。
肉親を亡くされた方はこの3年間は、あっと言う間とも言えるし、非常に長いものだったのではないかと察します。この地域で亡くなられた方の追悼碑ですが、近づいてみると、享年6歳とか8歳なんです。
私は東京出身ですが、この前の都知事選なんかも、脱原発については焦点ぼかしがあって、結局は自民・公明が押す桝添さんが東京都知事になったわけですが、東京都というのは、東京電力の大株主なんですよね。東電の経営に対していろいろと口を出せる立場にあるんですよ。また、なんと言っても最大の電力消費地であり、福島第1原発は、福島ではなく東京に電気を送っていたんです。そういうことを、もうちょっと東京の人は考えた方がいいのではないかと思います。
南相馬市に小高区というところがありまして、今でもこのように、ゴーストタウン状態なんですよね。一応出入りはできるんですが、電気や水道は全く来てませんから、戻るに戻れない。街よりも、山林に近いところでは、毎時8マイクロから10マイクロあったり、結構放射線量が高くていわゆる放射線管理区域。今も人が帰ることはできません。被災した地域の人たちは、県外に逃げた方々もいるが、仮設住宅に住んでる方もいる。ご老人、ご年配が多い。この仮設住宅は二本松市の山の中にあります。私も地図を見ながら車で行ったんですが迷いました。周りに街灯はないし、ひたすら山、山、山という所です。一番近い人里は3〜4キロ先で、陸の孤島状態、非常に不便です。まだ二十歳以下の子どもたちもごくわずか少人数いますが、こういった所で同年代がほとんどいない。学校に行ってもその学校に馴染めず登校拒否になってしまうとか、非常に難しい状況にあります。しかも、ここは本当に寒くて、二本松市の中心部に比べて4度くらい体感温度が違う。にもかかわらず、最初規制があって、畳を敷いてはいけない、改築してはいけないということで、ベニヤみたいな薄い床なのに、そこに畳を敷くこともできてなかったそうです。お年寄りにとってはかなり厳しかった。
実はここには、浪江町から逃げてきた方々お住まいですが、場所によっては浪江町よりもここの仮設住宅の方が放射線量が高いということがあるんですね。敷地内は徐線をしてけっこう下がったんですが、一歩出ると高くて、だから子どもが少ないということもあるんですね。非常に皮肉な状況なんですが、当初2年くらいでここは撤去して復興住宅というのを新たに建てて移る予定だったんですが、結局そういうことも全然進んでない。用地確保ができないということもあるんですが、住民の方々は、もうどこでもいいから、まともな所に引っ越したいと言う。結局、浪江町としてはもとの町民があちこちに分散してしまうとよろしくないと。そういう自治体側の都合があるようです。非常に難しいところなんですが、最初は、コミュニティごとどこかに移れればということもあったのかもしれませんが、非常に長期化する中で、みなさん疲れてきているわけですね。一方で、自治体は住民がいなくなっちゃうと、税収がなくなるとか、自治体として体をなさなくなるという都合があったりして。だから避難をするに際して住民の意見が分かれてしまう。以前、福島の小さい子どもを抱えて避難しているお母さん方への取材をしたとき言っておられたのは、避難するということが、福島を捨てるのかというような感じで裏切り者のように思われる。親御さんやご近所の方々の目というのがあって結局、避難したくてもできないというような。あるいは一回避難して戻ってきたときに、あいつは一番大変なときに逃げたと、そういう後ろ指を指されるということがある。でも、子どもたちの健康を考えると、やはり少しでも放射線量の少ないところに子どもたちを置きたいというジレンマ。実際、かなりのご家庭で離婚だとか、別居だとかそういうような問題が発生してます。単純に風評被害だけでなく、やはり原発事故によってどれだけ多くの家庭が壊引き裂かれて、あるいは崩壊したのかということも考えなければいけないと思っています。
この方は滝田春奈さんと言いまして、彼女は市議会議員なので郡山市に残って活動を続けてらっしゃるんですが、それでも非常に迷いがあると言ってました。非常に熱心に学校に空調設備を入れる取り組みをしました。というのは、窓を開けるわけにいかないんですね。窓を開けると、外の砂や埃が入ってくる。そこには当然放射能がついてるわけですから、子どもたちが内部被曝する可能性が高いわけですよね。ところが、夏場締め切ったりすると、本当に子どもたち大変で、汗をだらだら出して、ところが、滝田さんが一生懸命空調設備をつけるように訴えたんですが、ある市議の方がこういうことを言ったらしいんですね。「我慢することを学ぶことも教育だ」と。ひどい言いようですよね。なんか、いろいろ、風評被害対策や徐線対策そういうものにお金がいっぱい使われているわけです。それが悪いわけではありませんが、一方で子どもたちが結構おざなりにされているところがあるんです。そういうこともあって、滝田さんと同年代の方は、結構な数が、少なくても滝田さんの周りではほとんどと言っていいらしいんですが、
他の地域に避難されてしまったと。ですから、ますます子どもたちの健康や安全ということを考えるお母さん方がいなくなってしまったので、残った方は大変だと。余計なことは言うないうものすごい同調圧力があるということも言ってました。非常に難しいところなんですよね。郡山市としては福島県の中でも、県内の中心ですから、ここが放射能汚染されているという言い方をされると困る。早く復興ということにしたいわけですよね。ですから、そういう中で放射能の危険性を訴えるような市民活動家やお母さん方、あるいは市議会議員は邪魔者扱いされる、そういう非常に難しい状況にあります。本当に行政や大人が守らなければならない、子どもたちの権利が非常に軽く見られているという状況があります。取材して思うのは、この3年間、何が変わったかというと、あまり変わってないですよね。
それから、「子ども被災者支援法」という法律があって、残った人々も避難した人へ医療や教育、就職等で支援をする法律で、国会では全会一致で通ったんですが、未だに1円の予算もついていないんですよ。ひどい話です。なぜ子どもや妊婦や、一番弱い立場の人を助けるという法律が通ったのに、それに1円も予算がつかないのか。一方で復興予算の使い道は本当にひどい。福島県外の例えば、ゆるキャラってみなさんご存じですか。マスコットキャラクターですね。山口県のゆるキャラに総額で言うと4千万円くらい使ってる。復興庁というのは各省庁の出向先になっていて、だから各省庁の予算捕りあいになっています。例えば、調査捕鯨に22億円の予算。全国の調査捕鯨による鯨肉の販売ということで、当初宮城県の漁村の復興になるということで名目予算をつけたらしいんですけど、調べたら全国の鯨肉の取引で宮城県が占める割合は5%。ほとんど山口県等でさばいている。もっとひどい話は、ベトナムへの原発輸出に復興予算を5億円使っている。巨大事業は、事業として成り立つかどうかコンサルに調査させますが、ベトナムの原発を建てるか建てないかという調査に5億円も使ってるんです。本当にバカバカしいです。福島の利益になんか全然なってないんですね。宮城県、岩手もそうです。そういうことに復興予算を使っているのに、今まさに支援を必要としてる福島その他被災地の方々には1円も予算を付けない。この国は何なんだという気が、すごくしますよね。
それから、実は福島の人も大変なんですが、福島だけが汚染されていると思ったら大間違いなんです。先ほど、都知事選のときにも、もうちょっと東京都民の方々は考えたらどうかといいましたが、映像を見て下さい。この黒い物質というのは何かというと、降ってきた放射能は雨や風で寄せ集められてそれが土の中の粘土質や、微生物に付着して濃縮されたものなんですよね。これがすごい濃度である。だいたい環境中の放射能安全基準というのは1キロあたり100ベクレルなんですよ。ところが、東京都に数万ベクレルという、つまり安全基準の千倍くらいのものがゴロゴロ普通に転がっているんですね。これは東京江戸川区の平井駅というところです。地元のお母さんが黒い物質を発見したというのでついていきました。この黒っぽいのがそうです。子どもが触った跡があるんですよね。見た目は土ですから、けっこう触ってしまうんですね。こういった道路の脇にいっぱいあるんですが、だいたい、1〜2マイクロシーベルト出してるんですね。ただ本当の怖さというのはちゃんと検査してみないとわからなくて、さっきのサンプルは実は、24マイクロシーベルトありました。先ほど言ったように、安全基準レベルの放射能の濃さは1キロあたり100ベクレルです。もう一度言います24万ベクレルです。そんなものが、東京に落ちている。福島はもっとひどくて、この南相馬市に落ちていた黒い物質は、キロあたり、50万ベクレルくらいありました。先ほど言っていた、小高区は、これは京大の原子力実験所に持って行って、小出さんに計測してもらったんですが、表面に近づけてみると毎時100マイクロシーベルトくらい出てるんですよね。すさまじいです。ですから、小出さんが使っている機材に、ああいった袋で計測器に入れると針が飛んでしまうんです。あまりにも計測値が高すぎて。少量で入れないと壊れてしまう。それくらい強力な放射線量なんですよね。こういうのが普通にあちこちに落ちてるわけですよ。だから、モニタリングポストが福島にあって、そこの地域の空間線量がいくらかというのが出ますが、それはその空間の平均値を出しているのに過ぎないんですよ。だから、足下にさっきのような黒い物質が落ちていて、それがすごい放射線量を持っていても、実はわからない。近づけてみて、実際のベクレル数を計ってみるとものすごい濃さだったりすることがある。東京だけじゃなくて、埼玉や千葉、茨城、意外と栃木や群馬もかなりひどいんですよね。低いところの福島よりも、高いところの栃木や群馬の方が線量が高かったりします。福島の人たちはある程度放射線に気をつけているかもしれませんが、それ以外の地域の人たちというのは、あまり気にしなくなっていますよね。でも、放射能は別に県境で止まるわけではない。それこそ地球上に広がっていくものですから、当然他の地域も気をつけなければいけないんですが、原発事故から時間がたって、あのときの緊迫感が薄れている。この黒い物質の取材をしたのは、1年くらい前ですが、状況的には大して変わらないですよね。セシウムの半減期というのは、セシウム137だと30年位かな、だから、1年や2年で大して変わるものじゃない。だけど、人間の意識というのは、非常に移ろいやすいというか、もう原発再稼働ということを政府は言っていて、それに対して国民の方々は非常にのんきに構えているなと。もちろん、反原発、脱原発の方々はすごくがんばっているが、全体的に見るとやはり、のほほんとしているという感じが、やはり、取材していて思います。でも、やっぱりその原因として、東京もすごく汚染されたんだよという認識がそもそもあまりないんじゃないかな。福島だから大変だねという、その程度の認識なのではないか。実際の所はそんな甘いものではないということなんですね。こういった汚染などもこれから、ちゃんとどこが、スポットで汚染がひどいのかどうか、確認していかなければならないんです。そういうことをやっている人もだんだん数が減ってきて。そもそもそういう人は逃げているんですね。関西の方に移ってきたり、九州や沖縄に行ったりとか。あげくは日本から脱出したりとか。そういうことで非常に困った状況になってしまっている。そうした問題意識を持ってる人は、小さいお子さんがいらっしゃるご家庭が多いんですが、だからこそ、残ってられるかというと、厳しいところがありますよね。
福島第1原発の現状も、つい先日も汚染水漏れがあったということで、騒いでましたけど、結局どういった状況になっているかというと、アンコントロールな状況です。いろいろ状況はあるんですが、私はこの間、原発作業員の方々を取材してまして、お話を聞いてますと、非常に現場は危機的な状態にあると。安陪さんは完全にアンダーコントロールな状況だと言ってるけれども、ふざけるなと。一番大きな問題としては、現場の放射線量があまりにも強すぎるので、熟練労働者がほとんどいなくなってしまっている。現場にいるのは、ボルト締めもろくにできないような、現場経験が全くない人が、人数だけかき集められて、みすみす被爆して、また違う人に入れ替わるという状況があるわけです。そういった状況でミスやいろんなトラブルが連続して起こるわけですね。一度ネズミに配線をかじられて停電になったということがあったんですが、ああいうのも、ちゃんと見回りしていればいいんですが、人手が足りなくて見回りができない。足りないなら新たに人を雇えばいいじゃないかという話なんですが、東電はそういうことにお金をかけない。片や柏崎刈羽原発のためにすごいお金を使っているのに、そういった一番やらなければいけないところにお金をケチっているところがあるわけです。結局東電は営利企業なので、今国がお金を立て替えてますけど、いずれ国に対して返さなければいけないという状況があるので、あまり借金をつくりたくない。それで現場の予算カットが起きてくる。具体的に言うと、放射線に強い素材を使って、現場の機材を補強していったり新たに設置したりしなければいけない。放射線はモノを劣化させます。例えば強度が弱くなったり、寿命が短くなったり、放射線量が上がると、だんだんぼろぼろになっていく。ですから、放射線に耐性のある素材を使わなければいけないんだけど、安さ優先、速さ優先でやってるから、弊害がいろいろ出てくるわけですね。具体的に言うと、最初の頃は、とにかくスピード勝負でしたから、配管も新たに作るんじゃなくて、その辺のビニールホースの大きいのでやっていたんですね。ところが伸びてきた草で穴が開いてそこから汚染水が漏れるとか、本当に現場でがんばっている方は大変なんですけども、聞いていて思わず吹き出してしまうような状況でもあるんです。配線も全部カバーなどを付けなくてはいけないんですけど、むき出しになっているから、ネズミが配線をかじっちゃうとか、だからねずみ取りの罠を一生懸命仕掛けたりとか。そういうことではなくて、もっと抜本的な対策を取らなければいけないんですけど、そういった現場の声というのはなかなか上層部に反映されないわけですよ。東電の現場の人たちで、福島に常駐している人たちなんかは、ある程度把握していると思うんですよ。ただ経営陣にちゃんとそういったことが伝わっていない。だから、現場のモチベーションも下がりますよね。ろくな予算がない、ろくな資材がない、人手がない。これでどうやって収束作業ができるのか。また熟練労働者は原発再稼働が始まったりすると、あるいはそれに伴う工事は、原子力規制庁が出した新規制基準に適合するように全国の原発の工事をしてるんですが、その工事に人を取られたりで、身も蓋もない状況になっているんですよ。だから、福島第一原発の現場というのは、とにかく放射線量がものすごいですから、下手すれば、5年分の被曝量をたった1ヶ月もしないうちに被爆してしまう。そうすると、5年間働けなくなっちゃうんですよ。現場の原発労働者の方々は。その間手当が付くわけではないですから、そんなリスクの高い労働現場にいたくないというのは、それはしょうがないことですよね。そこに原発再稼働だとか、その工事があれば、そっちの方に技術者が取られてしまうという状況。他の原発は福島第1原発ほど放射能は高くないですし、もらえる賃金は同じですし、多少危険手当などはついているんでしょうけど、末端になってくると、その危険手当も、結局多重的な下請け構造の中で、ピンハネが横行するわけです。逆に言うとピンハネをしないと、末端の企業は経営が全く成り立たないという状況もあったりして。結局、東電がお金をケチっているということが、現場の労働者の方々に波及するし、それでモチベーションも下がってミスも連発するし、人手も他の再稼働に取られてしまうという悪循環で、こんなのが何年続くの?という気がするんですよね。福島第1原発の収束作業というのは、少なく見積もっても数十年かかると思いますけど、もしかしたら100年くらいかかるかもしれませんね。まだ3年くらいしか経ってないのに、現場はかなり危機的な状況で、本当にどうするんだろう。本当にアンコントロールな状況になっているのに。もっと危機感をもって考えるべき問題だと思うんですよね。
私はドイツのジャーナリストだとか、フランスのジャーナリスト、外国のジャーナリストの友人がいますけど、海外ではこの問題を非常に大きく取り上げて、すごく気にしているんですよね。私の書いた記事もフランスの大きな雑誌に掲載されたりもしていますが、関心は高くて、日本は何をやっているんだと。本当に原発輸出なんて言っている場合じゃないんですよね。また輸出先が、トルコとか。なんでまた、地震大国のトルコに原発を輸出するのか。結局、そういう原子炉を造っているメーカー、三菱重工とかそういうところは、儲かればいいのかもしれませんが、国際的な評判が下がるし、何よりも、福島第1原発を収束させられるのかという、そういうところにもっと、意識を向けて、お金や労力をつぎ込むべきだと思うんですが、本当に現場は忘れ去られている状況です。本当に困った状況ですね。
私も何度か記事を書いたりするんですけど、やはり以前に比べると反応は鈍いですよね。今4号機の、福島第1原発4号機の燃料プールの燃料の運び出しをやっていて、今のところまだ順調ですが、これが例えば、何かまちがって、例えば核燃料をどこか外に落としてしまったとか、核燃料を冷やせなくなったりとか、あるいは余震なんかでプール自体が崩壊したりとかしたら最悪ですよ。小出裕章先生に言わせれば、最悪の事態では、福島第1原発事故で放出された放射能の10倍の放射能が放出される可能性があると。そうなると東京・首都圏壊滅ですよね。どうするんだろう。日本が終わりますよ。このまま収束作業がうまくいかないと、そういうリスクもあるということです。4号機ばかりが注目されてますけど、2号機の汚染の状況もすさまじいものがありますし、こういったこともどうするのか。割とお手上げ状態ですよね。今の原発がすぐに爆発するとかそういった状況ではないですが、汚染がだだ漏れであるということは、やはり深刻な問題だと思います。
非常に困ったことに、この国を守るとか、日本を取り戻すとか言っている方々が何をやっているのかということで、何か優先順位が違うんですよ。今、安陪さんが情熱をもってやっているのは、憲法をいかに変えるかということですよね。
今まで原発の話をしてきたんですが、ちょっと今から紛争地の話もしたいなと思っています。私は紛争地ジャーナリストというのがもともとの仕事でして。3.11以降は原発事故の取材をすることが多かったですが、もともとは紛争地で取材している人間だったんですね。実際に紛争地に行って被害を伝える人が日本では少なくて、大手のマスコミも、結局自分の所の社員が死ぬと世間がうるさいということで、社員を紛争地に送らなくなったんですね。ですから、こういう取材をしているのは、本当に一部のジャーナリストだったりする状況ですが、ただ、こういった経験が特殊だったのは、これまでの話。あるいは、今までの話なんじゃないか。どういうことかというと、安倍政権が目指している憲法を変えるということは、まず、平和主義を捨てるということが大きいのですが、それだけじゃなくて、基本的人権を否定するような内容なんですよね。これは、私が憲法を評価しているとかじゃなくて、自民党の憲法改正草案のQ&Aにはっきり書いてあるんですけど、天賦人権説というのを見直すと。つまり人権というのは、もともとどの人々にも分け隔てなく平等にあるものであって、それはもとからある権利であるという、それが天賦人権説なんですけど、これをおかしいと言ってるんですね。いかに権力が人権というものを国家の都合によって押さえ込むか、制限するか、そこに重きを置いていて、この前安陪さんが集団的自衛権に対する解釈改憲に関して、私が決めるんだから文句は言うなというような言い方をしていたんですけど、根本的に憲法というのがわかっていないんですよ。憲法というのは、難しい言葉で言うと立憲主義ですよね。要するに、権力というのは必ず暴走するものである。で、権力の暴走から一般の国民、一般市民を守るために憲法があるんですよね。憲法が国の暴走を押さえるための、いわば鎖だったりするんですが、自民の憲法改正草案を見ると、「国民はこの憲法を守る義務がある」というようなことが書いてあるんですよね。えーっ!逆だろという。恐ろしい話なんですが、そもそも人権だとか憲法だとか、そういうことをどうやら全然わかってないみたいなんですね。国家安全保障基本法案というのがあって、これには有事のときは国民は戦争に協力する義務があるというようなことが書いてあるんですね。財産や権利というものを押さえる。先日も山梨の方にものすごい雪が降ったときに、民間の車などをどけていくような法律を作るべきだという議論があったと思うんですが、基本的には同じ発想ですよね。そういう非常時に個人の人権や権利を国家の都合で動員してもいいということが、しっかり書いてあるんですね。非常事態宣言を出したときは、首相の裁量で国会を通さずに法律をつくっていいというような。えーっ、何この独裁法案。国会否定ですか、というような、そういうむちゃくちゃなことが書かれてるんです。日本がそのまま戦争をするということは考えずらいんですが、今後非常にあり得ることとして私が懸念しているのは、集団的自衛権の行使ですよね。集団的自衛権とは、端的に言うとアメリカの戦争に巻き込まれるということ。日本が攻撃を受けていなくても、アメリカが攻撃を受けた、あるいは攻撃を受ける恐れがあるときに、アメリカの反撃、あるいは先制攻撃に日本も参加し、武力行使というのが、現在の憲法では禁止されているんですけども、安陪さんはこの集団的自衛権というのを何としてもやりたい。結局アメリカは自分たちの都合で、イラク戦争はまさにそうだったんですが、大量破壊兵器の疑惑をでっち上げ、難癖をつけて戦争をするような国じゃないですか。そういった国と一緒に集団的自衛権ということで巻き込まれる可能性が極めて高いということなんですね。そういう中で、例えば船舶関係者だとかIT関係者だとか、その他土木関係者とか、有事の際に動員される確率は今後さらに高まっていく。自衛隊の人たちだけじゃないですよ。危ないのは。
実際、自衛隊のイラク派遣ではどういう状態だったかというと、実は集団的自衛権の行使にかなり近いことをやってたんですよね。これは、米空軍のサイトなんですが、そこで航空自衛隊が同盟国の軍隊の中でも要の存在だと、べた褒めしている。実は航空自衛隊が運んでいた人員は、6割近くが米軍関係者だったんです。みなさん思い出して下さい。自衛隊がイラクに派遣されるとき、当時の首相たちは何と言っていたか。イラクの復興のために自衛隊を送るのであって、戦争をするためじゃない。国連などの人道支援関係の人を乗せるために航空自衛隊が活動していると、第一次安倍内閣のときに、他でもない安倍首相が言ってましたよね。ところが、国連関係者の人員輸送は、たったの5%なんですよ。ひどい詐欺ですよね。国民には、国連と人道支援関係者という言い方をして、ほとんど米軍だったんじゃないですか。そういったことを当時私は、いろいろ国会議員に聞いてまわって、追求してたんですけど、全く情報が出てこなかったですね。だから特定秘密保護法なんて、可決する前から、こういった本当に政府が隠したい秘密というのは出てこないんですけど。結局国会議員すらも実は、航空自衛隊が何をやっていたか全く把握していなかった。これ、議会制民主主義の否定ですよね。とんでもない話です。嘘をついていたんです。で、こっそりそういうことをしていた。で、運んでいた米兵が何をやっていたかというと、これは、防衛省の幕僚幹部なんかの人たちも認めたんですが、要するに米軍は掃討作戦をやってるんですね。要は徹底的にイラクの人たちを礼状も何もなく、どんどん捕まえてって、拘束して、拷問や虐待をやらかす。「おまえは、アルカイダを知らないか、テロリストを知らないか」などどんどん問いただしていく。
これはバクダットでの掃討作戦について回って取材をしたんですが、米軍が民家にどーんと押し入って、人を引きずり出して銃を突きつけて。誰がだれということはないです。そこに住んでいた人が、みんな男性は引きずり出されて連れて行かれるんです。詳しいことは収容所で聞こうと。ひどいですよこれは。私も実は取材中に捕虜収容所に放り込まれたことが一度ありまして、ですからそこで何が行われたのかというのを実際に直に見てるんですが、例えば頭に袋をかぶせられて、後ろ手と足を縛られて、炎天下の砂漠に放り出されるということをイラクの人はやられていましたが、イラクは暑いです。気温が50度くらいになるんです。窓を開けて車で走ってると、顔にドライヤーを当てられている気分になりますけど、そういう炎天下で水も与えられずこういう風に放置されたりとか、そういうことが横行していた。でも、これはまだぬるい方で、私は刑務所の被害者の方に何度も会って話を聞いたんですが、ミュージックパーティという拷問があって、頭にヘッドホンを被せられて、ものすごい音量で音楽をかけて数時間放置するとか、ポピュラーなのは電気ショック。そこに医者が立ち会って、「こいつはまだいける。もう1回かけて」という感じで、バリバリやる。で、市街地をバンバン攻撃したり、爆撃したりとかしてるわけなんですよね。こういった市街地にミサイル攻撃をしているところを取材しているジャーナリストも狙われて、さっきの人は、家から出たときに狙撃手に頭を撃ち抜かれて、両目が吹き飛んだんですね。カメラマンだったんですが。彼を撃った米兵たちは、彼を拘束して、彼の家のカメラや撮影機材を全部破壊し、フィルムや資料も没収していった。イラク人ジャーナリストですが、8回くらい米軍に捕まって、その内2回はかなりひどい虐待を受けています。だから、イラクで何が起こっているのかを取材するということがすごく危険なことだったりするわけですよね。
これはラマディの空き地だったんですが、余りにもたくさん人々が殺されて、また包囲されて外に逃げることができなかった。だから、空き地はどんどん、こういった集団墓地に変わっていくんですね。虐殺なんかも、結局海外のジャーナリストは、私も含めて、余りにも危険で、かつ米軍が邪魔をするものだから、なかなか入って取材できないと。で、中のイラク人ジャーナリストはがんがん殺されるというような状況でした。なので、イラクで何が起こっていたのかは、実はあんまりよくわかっていないんですよね。本当は。
結局自衛隊も、航空自衛隊が米兵たちを運んで、そういった虐殺の片棒を担いでいたわけです。こういった兵員の輸送、兵器の輸送あるいは、武器弾薬の輸送ということは、国際的な常識で言うとこれは戦争行為そのものなんですよ。戦争で一番重要なことは、そういった人員や武器弾薬の補給路を断つことなんです。それが、古今東西戦争の基本的な戦術なんですよね。そこの所を自衛隊が担っていたということです。だから集団的自衛権がおおっぴらに認められるようになったら、それが認められていなかった頃のイラクの自衛隊派遣ですらこの有様だったんですから、推して知るべしという状況ですよね。
ちなみに、隣にファルージャというところがあるんですが、虐殺があって、こういった形で、サッカー場だったんですが、集団墓地に変わっています。現地の友人が撮ったんですが、白旗を掲げた少年が撃ち殺されたりとか、動くものは何でも撃つという状況で、ファルージャでは2004年、ちょうど10年前、4月と11月に特に大規模な米軍による攻撃があって、死者行方不明併せて1万人くらいと言われてますけど。これをやったのが、実は沖縄の海兵隊なんですよね。沖縄の海兵隊が最前線で闘っていたわけです。ですから、抑止力なんて言ってますけど、別にあれは日本を守るためにではなくて、日本を拠点にしてそこで訓練して世界の戦場に飛び立っていくんですね。海兵隊の人たちは。抑止力ではなくて攻撃力なんです。こういったことに、年間5千億円とか6千億円とか日本は在日米軍関係経費として毎年肩代わりしているんですけど、非常にばかげた話ですよね。
本当に安倍政権は、むちゃくちゃで、今までの自民党政権が非常にましで、素敵な政権に思われてくるくらいひどい。今までの自民党政権がある種タブーにしていたようなことも、どんどん破っている。安倍政権は昨年末、武器輸出3原則を見直すという方針を示しましたが、実は、武器輸出三原則は、紛争地に武器を売ってはいけないという憲法の理念に従った日本独自の政策だったんですが、これを見直して、こともあろうがアメリカの最新鋭の戦闘機の部品を輸出してもいいということになったんですね。アメリカの最新鋭の戦闘機がどこで使われるかというと、使われる先の一つが、イスラエル、パレスチナなんですよ。イスラエルでF35というのを使うわけですが、イスラエル軍は、ガザという地域で。私はあちこちの紛争地に行ってますけど、ここまで街が徹底的に破壊されたのは見たことがありません。そういった無差別攻撃を行う兵器として、メイドインジャパン40%、F35では最大で日本製部品が40%くらい使われると言われてますが、それでこういう虐殺が行われる可能性があるという状況が出てきている。こういった問題に関して防衛省、日本政府の方も、F35をアメリカが一元管理するからイスラエルにも日本製製品が使われるのではないかということは、認識はしてるんですけど、たいしたことないと思っているようです。F35に部品を提供するのは、原発メーカーでもある三菱重工なんですけど、結局そういった自民党に献金してくれる大企業の利益さえ守れれば、現地の人たちがどうなってもいいらしい。でも、ちょっとそれは違うんじゃないかと思います。現在の憲法に書いてあることなんですけど、平和的生存権というのがあるんですよね。つまり我々は戦争で殺されない権利があると同時に、戦争に協力したり、戦争で人を殺したりするのもいやだという権利があるわけです。それは憲法の前文にはっきり書いてありますよね。判例をみても、自衛隊のイラク派兵の差し止め訴訟では、名古屋高裁で航空自衛隊の活動は集団的自衛権の行使にあたって、違憲だと判決が出たときに、判決文の中で平和的生存権というのが認められている。ところが、自民党の憲法改正草案ではこれが削除されているわけです。つまり、我々を戦争にかり出して、我々が戦争で死んだりとか、あるいは人を殺してしまったりとか、そういうようなことをやれと。認めろということを安陪さんたちは考えているようなんです。
でもそんなものを子どもたちに引き渡していいのか、というのがあるわけで、これは大人として戦後60年、平和の時代を謳歌してきて、その中で生きてきた大人たちが、子どもたちにこういうような怪しげな憲法改正草案やそれをめぐる情勢というのをバトンタッチしていいのか。そこは私は絶対許してはいけないし、何があっても食い止めるべきだと思います。やはり、先ほどの原発の問題でも言えますが、安全で安心な世の中を次の世代に引き渡すためには、いろいろな課題があって、今日は時間がないので話はしませんが、例えば環境問題などもあるわけで、本当に今我々が考えなければいけない課題は非常に多い。そこでやはり、日々の生活もあり大変なんですが、やはり今まであまりにも、一般の国民の方々ものんきに構えていたのかな。気がついたらとんでもない状況になってしまったと。さらにまた、とんでもない政治状況になりつつある。いい加減やはり、そろそろ、大人は本気を出すべきだと思うんですよ。次の世代を守ると言うことに関してね。じゃないと、後々の世代にずっと恨まれることになるんじゃないかな、と思っています。
ですから、私はジャーナリストですし、小さな子どももいる親でもあるわけですが、責務は果たしていきたいなと思っています。つたない話でしたが、どうもありがとうございました。
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