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第45回人権交流京都市研究集会
パネルディスカッション
井上 新二 (元第三錦林小学校長) ◆ パネルディスカッション
コーディネーター北村 淳(京都市立中学校教育研究会人権教育部会)
パネラー 吉田 壽史 (京都市立中学校教育研究会人権教育部会) 阿部 三郎 (部落解放同盟京都市協議会) 中野 真吾 (京都市小学校同和教育研究会) 野村 達哉 (京都市小学校同和教育研究会)
はじめに・・・司会 弓削雅哉さん(中人研) ・挨拶,および討議の進め方についての確認 講演者の紹介・・・責任者 井川勝さん(小同研) ・井上新二さんの略歴の紹介
『一人一人を徹底的に大切にする教育』と謳われるが,かつての教育の歴史を振り返ると,必ず一人一人が大切にされなかった時代に踏み当たる。真の意味で,『一人一人が大切にされる教育』を目指さなければならない。
(休憩後,司会から,パネルディスカッションのパネラーとコーディネーターを紹介。) 北 村 『マイナスの連鎖』を断ち切るために,教育として何ができるのか?をパネルディスカッションで論議したい。自己紹介と講演の感想を兼ねて,パネラーから一言ずつ話してほしい。 中 野 井上先生の「真っ暗闇に入り込められた」という生徒の言葉の重みをかみしめ,自分はどれだけ子どもに寄り添っているかを考えさせられた。 吉 田 マイナスの連鎖を断ち切るためには,「チームワーク・組織力」が欠かせないと感じる。それは,信頼によって成り立ち,必要不可欠な要素であると考えている。 野 村 「教える」と「学び切る」との間にある溝が埋められているか?を問い直す時,漢字検定を突破することで言語能力の育成を目指して,子どもと取り組んだが,試験当日に子どもは欠席してしまった。学力の根っこにあたる力を育てられなかったのではないかと反省する。 阿 部 改進地区の児童・生徒の実態と様子について,改良住宅を出て,地区を離れた家庭は,収入は得たけれど,学力の高まりに結びついていないのは何故か?を問い続けてきた。地区には,文化資本(文字文化)に触れる機会がやはり少ない。学力的に厳しい生徒の背景を知るためには,やはり家庭訪問が必要ではないか? 中 野 学力の根をはるために,必要な土壌にあたる家庭・地域の力が,大きいのではないか? 北 村 土壌にあたるものに,学校も含まれるのではないか? 吉 田 地域の方々と「つながる」ために必要な家庭訪問であって,進路保障の実現のためには,家庭の経済面や生活面の現状に踏み込まないと実現できないと感じている。 野 村 学校現場では,「縦のつながり(先輩から後輩へのアドバイスや忠告)」は少なくなっていると感じつつも,「横のつながり(学年担当の教員同士の情報交換)」などは高まっていると感じている。学力を支えている教科学習以外の家庭の様子などを知り得るために,家庭訪問は必要である。 吉 田 授業の工夫改善も,学力向上のためには重要な要素である。どこまで不得手な子どもの理解につながる手立てを打てるかが大切だ。「できる」という自信の積み重ねが,学力向上に結び付くのではないかと考えている。 北 村 志水宏吉さんの「つながり格差」という定義が,マイナスの連鎖に大きく関わると考えている。離婚率・持ち家(三世代)率・不登校率が大きな要因であると分析された。これまでは農村と都市で比較した都鄙格差であると言われてきたが,親・祖父母・生徒などの間での「つながり」が強くあれば,学力も向上する可能性があるというデータが示されている。 阿 部 かつて私自身が,中学校での進学促進ホールでの学習を経験したときは,プリント学習を中心とするものであった。井上先生のお話に出てきた卒業生と同じように将来展望や目的意識は持ちづらかった。特に,保護者同士の結びつきの大切さや情報の共有が大切だと感じる。志水宏吉さんの研究の報告にある,社会関係資本として保護者同士のつながりの大切さや,文化的資本として子どもを励ます人間関係が豊かであるかということを振り返るとき,身近な姿勢を示してくれたのは,常に先生(教員)であった。 北 村 社会的包摂という学術用語もある。人間同士の「つながり」で「包み込む」ことを指すが,学校現場にその力が必要ではないか? 吉 田 子どもにとって,自分の居場所があるという安心感や信頼感は学力向上に欠かせない。 野 村 教員同士にとっても,「つながり」は大切であると感じる。 北 村 先ほど,学力の根っこを育むために,土壌を耕すことが大切だと話題が出たが,どう考えるか? 吉 田 学力をつけていこうとするために,必要になるものは何かを考えると,環境を整えていこうとすることは自明なのではないか? 中 野 目の前の子どもが何を必要としているのかを見つめるときに,マイナスの連鎖を断ち切ろうという行動が生まれるのではないか? 野 村 「寄り添う」を,3つの時系列(現在・過去・未来)で獲得できるとき,子どもを切り捨てずに,前進させられるのではないか? 阿 部 マイナスの連鎖を断ち切るには,先ず子どもを変えていくこと。教育条件を十分に整えられない親のもとに子どもを帰しても,子どもを変えることはできない。そのとき,先生方も孤立してしまわないように,教職員としての「つながり」も大切になってくるのではないか。 井 上 子どもの学力を支える力を考えるとき,「京都聖嬰会」での子どもの言葉「私なんか,生まれてこないほうがよかった。」を聞いた時,自分の高まりや進歩を『心から喜んでくれる人』がいること,良くないことをしたり失敗したりした時に『心から悲しんでくれる人』の存在が,その子の生き方を大きく変える事例を見てきた。授業を改善しようとするとき,学び上手な子どもではなく,学び下手な子どもの「つまづき」を予想して,手立てを用意する授業づくりが大切だと考えている。
(フロアー,音羽川小学校より) 第三錦林小学校時代に井上先生と出逢い,音羽川小で同じ取組をしようとした。不得意な子どもに支援する言語能力育成プランを実施し,成果を上げてきた。『音羽川検定』としての実践は,学力の向上にもつながった。
(フロアー,改進支部 柳生さん) 家庭での教育力をのぞめない子どもはどこに行けばいいのか?自分自身は事務系の仕事に就きたいという夢や願いが家庭状況で困難になったとき,恩師の励ましに支えられた。家に帰っても夢や希望を持てない子どもは,見捨てられてしまうのか?帰る場所は学校しかないのだと思う。『一人一人を徹底的に大切にする教育』という言葉が,よく使われるが私はとても嫌いだった。でも,今日の井上先生のお話を聞いて,その意味が腹の底にストンと落し込めた。有り難うございました。
(コーディネ―タ―からの挨拶,司会からの事務連絡(アンケートへの協力の呼びかけ)後,終了。)
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