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第44回人権交流京都市研究集会
提起「社会的包摂の実現をめざして」 〜よりそいホットラインのとりくみ
話題提供 藤 喬(京都暮らし応援ネットワーク代表理事) 保田 美幸( 〃 副代表)
司会進行 廣瀬 光太郎
記録 町野 覚
分科会責任者 松田 國広
庶務 松田 誠二
分科会責任者および司会者が、「人権、差別の問題について、互いの顔が見えるところで、普段着で話し合う場」との分科会の趣旨が語られた。 京都暮らし応援ネットワーク代表理事の藤 喬 氏から「社会的包摂の実現をめざして」〜よりそいホットラインのとりくみ〜について話題提供を受けた。
藤 「よりそいホットライン」は、岩手県宮古市の前市長である熊坂義裕医師が被災3県の首長や地元の有志に呼びかけ一般社団法人社会的包摂サポートセンターを設立し、「東日本大震災からの復興には、まず被災者の心のケアが大切である」として、2011年10月から無料の電話相談事業を始めた。当初は仙台市内に相談センターを置いて被災3県からの相談だけを受けていたが、12年度から厚生労働省社会援護局の「社会的包摂ワンストップ相談支援事業」として復興予算16億円の補助を受け、今では37都道府県の地域センターに1800人の相談員を配置する全国ネットの総合相談窓口となった。 DV,多重債務、障害者、外国人労働者、ホームレスなど様々な分野の運動をしている全国団体の代表を運営委員に迎え、400以上の団体と連携して、相談体制をひいている。京都府では、私たちの「京都暮らし応援ネットワーク」が地域センターを担当している。 相談者は、0120のフリーダイヤルで電話をかける。掛けた電話は中央のコールセンターに繋がり、次の5つに仕分けるガイダンスがある。@生活全般の悩み相談、A外国語の対応が必要な方の相談、BDV/性暴力被害など女性の相談、Cセクシャルマイノリティの相談、D希死稔慮の方の相談の5つに分けられる。A以下の相談は、専門の相談員が配置されたセンターに繋がる。外国語の相談は、7ヶ国語に対応できる。 復興事業として始められた経緯から、被災3県からの電話が優先されて地元の相談センター、続いて近隣府県の相談センターに振り分けられる。京都のセンターでも東北からの相談、首都圏からの相談を受けることもある。被災3県以外の地域からの電話は、まず 地元センター、地元の回線が塞がっていれば近隣府県センターへと回されていく。 2012年4月から12月までの9ヶ月間で全国から740万コール、それに対し相談者の電話が繋がったのは30万件、接続完了率は4%である。東北6県からの相談電話は、60万コール、繋がったのが5万8千件、接続完了率は9.5%と全国平均の倍以上の確率である。 相談は10分、20分で終わることもあれば、中には2時間、3時間かかるケースもある。私が受けた相談では4時間と言うのがあったが、普通は1時間以内に終わる。相談事業を始める前は問題解決型の相談が多いと思っていたが、実際は心の相談が多かった。とにかく話を聞いてほしいという相談で、「よりそい」は家から掛けても携帯で掛けても通話料はタダ。「いのちの電話」は有料、通話料がかかる。心の相談電話が「よりそい」に流れていると思う。相談者の6人に1人が自殺稔慮者で、「死にたい」という電話がいかに多いか。相談員も死にたいと言う電話にどのように対応すればよいか研修会を開いて学習し、電話の掛り方に上手になって来ている。 「話を聞いてもらって、すっきりした」というのもあれば、相談者をDVのシェルターに案内したり、食料を届けたりと具体的に行動するケースもある。多重債務の被害者の会など専門の相談窓口に繋いだりする。自分の事を話しているうちに考えが整理でき、「あ、分かりました。有難う」と言うケースも多い。 相談員も、「引きこもり」、「薬物依存」に取り組む団体の人、精神福祉士など様々な分野で活動している方、弁護士、行政書士、司法書士など専門的な知識を持った方に来ていただいている。ただ労働組合の活動家をしていた方の相談員は少ない。この電話相談は相談者に寄り添って話を聞くことからはじまるが、労働組合の役員は相手に寄り添うのではなく説教しちゃう。 14年間連続して3万人超えていた自殺者が去年に始めて3万人を切ったそうだが、団塊世代が60歳を超えて自殺者率の高い50歳代人口が減ってきたことが原因ともいえる。一方で、若年層の自殺が増えている。阪神・淡路では被害にあって2、3年目に自殺者が増えた。東日本大震災も今年が3年目になるので、自殺者が増えるのではないかと心配されている。 政権が変わった途端に、3年間かけて生活保護を6.5%切り下げると決められた。生活保護が下がったら、最低賃金にも、年金にも連動する。今でも生活保護の水際作戦と言われ、闇の北九州方式で、申請に行ったら追い返される。北海道では姉妹が餓死、凍死した。 この前、大阪でホームレスの方が若者によって殺されるという事件が起きた。京都でも花火をホームレスの方に投げたりする事件が起きている。大人社会の反映で、子供たちがそういうことをやっている。子供たちが裏正義という言葉を使って、汚いもの、社会から無くしたら良いものを、法に代わって処分するという排除の論理だ。京都の東九条の朝鮮第一学校に対する在特会のデモも、日本の醜い排除の論理の反映だ。よりそいホットラインの電話の中で、排除の社会になっている状況が聞き取れる。 政権が代わって予算が付かないのではと思ったが、「社会的包容力構築事業」と名前が変わって予算が付いた。来年度も事業に応募したい。
質問者 話を聞くとホットラインは、本来は地域とか家庭の中で話すような内容が多いと思う。地域や家庭で話せる環境が無いからホットラインで聞くのだが、これを続けても将来的な解決を見越した展望が見えないように思うが。 藤(代表理事): 私個人としても、「電話相談でどれだけの人が助かっているのか」と思うこともある。しかし、相談員として来ていただいている方々の所属する様々な分野の団体とのネットワークができた。この地域の、この分野の相談については、ここに繋げれば良いということが分かった。 我々の団体はホットラインだけではなく、福島からの避難者への相談会とか、障害者の自立支援の取り組みをしている。また、刑務所が最後の安全網と言われるほど三食を得るために犯罪をくり返す人がいる。受刑者の保証人になって生活を支援する活動とか、ホットラインの業務から繋がりができた他の団体と協同して活動の幅が広がって来ている。
保田(副代表): 相談員の仕事をしながら相談員の研修やシフト表の作成など相談体制をバックアップしています。 本職は精神医療福祉士で、日本では社会に受け皿がないため本来は入院の必要のない精神疾患患者を入院させおり、全医療機関の入院ベット数の20%が精神科である。なんとか社会的入院を解消し、生活者として地域に戻ってもらおうとしてできた資格である。 鬱病とかアルコール依存症など治療のために自ら入院しても、鍵のかかる病棟に入れられる。それが当たり前の構造になっている。 よりそいホットラインで相談者の7割の人が心の病だと言ってるのが、その背後には仕事を無くした方、非正規の方、正規で入っても職場の状況が私たちには想像もできないくらい過酷な状況にあるのが見えてくる。鬱が若者の心の弱さの現れではなく、現在の環境の酷さ、働く環境の悪化が原因と思う。
質問(大学で学生支援としてカウンセリングをしている) 「よりそい」と言う言葉の意味からすると、昔はもっと近所付き合いもあったし、生活の場に「よりそい」の基盤があった。今の学生達にコミュニュケーション障害を持った人間がいるのだが、この「よりそい」の基盤が消えている事に原因がある。関わりを持つこと自体が面倒くさい、ややこしいと言う風潮だ。 話を聞いて気になったのは、3時間も相談することがあるということ。普通は長くなっても50分、1時間も話をすれば堂々巡りが多くなる。もっと効率を上げることについて「よりそい」ではどのように考えるか。
保田(副代表) 電話相談事業を始めるときは30分の相談をと時間をイメージしていた。問題解決型の相談が多いと思っていて、相談に応じる仲間も法律家、非正規労働の専門家など集めたが、実際は心の相談が多かった。そこに関する技術、寄り添い方が難しかった。今、傾聴研修とかやってレベルアップを図っている。
藤(代表理事) 日本の企業がどんどん外国に出て行くようになった80年代以降、労働のあり方がどんどん変わってきた。職場にパート、アルバイト、派遣が当たり前になり、競争社会になった。それが壊れかけている日本社会、寄り添いが消えていく社会になっている気がする。
意見(元京都府職員) 府の職場にもアルバイトや派遣が増えてきて、隣の係との連携が弱くなっている。 意見(元京都市職員) 昔は仲間と一緒にやる仕事が多かった。今はパソコンンが一人一台になって、仕事は一人でするようになっている事も大きな変化だ。
意見(助産師をしている人) 「よりそいが」窓口としての役割を果たし、相談者の問題を整理して必要なところに繋げれば良いと思う。助産師会でも、電話相談事業をやっている。女性に関する相談を全部受けている。妊娠、出産に限らず、子育て、更年期、老年期と全部相談に応じている。孤立しているお母さんが多く、母親と関係の悪いお母さんが増えている。
意見(大学の学生カウンセラー) 子離れしない親と両親に叩かれた経験のない子、何時までも友達感覚でいてたい親子が多い。成長過程の中で越えていかねばならないものが無いままズルズル来ているような気がする。 若いカウンセラーに、「カウンセルで何とかしようと思うな」と言っている。コーディネートどうするかと言うことに尽きてしまう。自分達以外の相談の資源をどのように関係づけていくか。 今日、話を聞いて、「よりそいホットライン」は凄いことをやっていると感じた。
藤(代表理事) 解決の処へ持っていくというより、話を聞いてほしいという電話が多い。ループ、繰り返しになる電話は途中で切りましょうねと研修している。
保田(副代表) 「よりそいホットライン」に入って思ったことは、自分は特定の分野では一生懸命やって来たけど、本当に知らないことが多いと言うことだった。
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