第37回部落解放研究京都市集会
同和教育が大切にしてきたものを継承,発展させ 全ての子どもたちの学力・進路保障を実現するために 司会:細田 千夏(京都市小学校同和教育研究会) 記録:平野 智洋(京都市小学校同和教育研究会) 玉中 和子(京都市小学校同和教育研究会) 稲垣 智裕(京都市小学校同和教育研究会)
■第1部 話題提供 T「法切れ後の京都市の学習施設の現状」 第6分科会実行委員より 第6分科会実行委員による独自の調査から,京都市の学習施設(14施設)の現状について以下のように報告しました。 1998年度より,すべての学習施設において,周辺地域に開かれた特色ある取組が行われている。同和地区外児童・生徒や高校生,大学生,周辺地域住民など,様々な人たちにも利用されている。 <調査結果> 小学生:教科学習・人権学習・英会話・コンピュータ・まちづくりに関わる学習 中学生:教科学習・同和,人権学習・英会話・インターネット・漢字検定・自習学習 高校生以上:高校生学習会・地域保護者会・識字学級・教育相談 休業日:地域の歴史を学ぶ会・囲碁教室・親子学習会・自由研究の相談会 役割:保育所,小学校,中学校,高校,大学を含めた教育連携の拠 地域と家庭,学校をつなぐ教育ネットワークの核 <考察> 学習施設の在り方:学力保障の場・将来展望拡大の場・人権・文化発信の場 今後の可能性:平日における昼間利用
U「『誰がやるか』じゃなく,『みんなでやろう』」 谷川 栄一(解放同盟大阪府連日之出支部青年部長) 谷川氏が,かかわっている部落の子どもたちの現状と,子どもたちを取り巻く状況について,自らの生い立ちを通してお話いただきました。 ・
自分が関わっている部落の子どもたちから,自分たちの話をしてほしいと言われている。 ・ つらい日々を送っていた自分に,唯一寄り添ってくれる大人(先生)が必要である。自分自身がそういう大人に出会い,「お前と同じ苦しい思いをしている子どもたちはたくさんいる。その子たちを見捨てるのか?お前ならできる」とバトンタッチされた。その言葉がきっかけで自分は青年部長になり,目の前の子どもたちの現状から学習会を始めた。家で勉強ができないのならと,青年会館を借りて勉強を始めた。当初の状況は,たし算引き算から始めなければならなかった。 ・ そのような中,東京で起こった「大量差別はがき事件」は,同様のことが日之出地区にも起こった。この事件を通して,「部落差別は夢までも奪うものである。」と心底から部落差別に憤りを感じた。この時,自分たちが教えている子どもたちが,怒りをもって「差別はおかしい」と立ち上がってくれた。 ・ 現状にある学力の実態から,学習会を開いている。目の前の子どもたちが,学力がついていないまま義務教育を終えてしまうのを,何もしないでいるわけにはいかないからである。「教師が」「親が」「地域が」と,互いに押しつけ合っていても何の解決にならない。自分たちでできることを探り活動している。 ・
また,相談活動も行っている。子どもたちからの相談メールは,年々増えている。 ・
うつやリストカット等のメールが増え,始めて3年目には,自殺願望,薬物依存の相談も増えてきた。この子たちに共通することは,みんな今まで愛情を受けていないということである。そんな子どもたちは自分に寄り添う大人に出会えていない。学校でも家でも苦しんでいる子どもたちの声を誰も聞けていないのである。「お前のことが好きや。ほっとかれへん」という気持ちを見せることが必要である。自分たちは,まず抱きかかえることから始める。「一緒にたたかっていこう。僕らがたたかう」といってあげる。学習会で出会った子どもたちには,まずがんばったことをほめることから始めている。 ・
その子の生活実態や背景を見ることを大切にしてほしい。家庭や学校,地域に部落差別があるということから目をそむけないでほしい。「あきらめ」がすべてを終わらせてしまう。人は意志をもって歩き出すのだということをわかってほしい。しかし自分一人では何もできない。一緒にやるというあたたかさで子どもたちを育ててほしい。 V「 同和地区児童・生徒をはじめとする, すべての子どもたちの学力保障に向けて 〜下京中統合を間近にひかえて〜 」 坂田 良久(京都市中学校同和教育研究会) ◇学校の様子 生き生きと活動する生徒 ・生徒会活動,人権学習,地域学習,交流学習など ◇地域改善の取組 崇仁地域の10年間の活動 ・まちづくり,学習広場,ビオトープ,お囃子,陸上教室など ◇学校の取組 研究発表の取組 ・地域学習(1年),人権劇(2年),自分の思い(3年) ◇現在の差別 雑誌に書かれた差別記事 ※崇仁小学校PTA代表より補足 ◇崇仁の現状 実態としての差別 ・就学援助の率,学力面の格差 ◇学校の取組 差別解消に向けた生徒の活動 ・学習,交流,生活習慣改善 ◇下京中学に向けて 皆山中学校としての見解 1.課題ある生徒の背景までを見た,一人一人を大切にする学校の実現 2.同和問題啓発の継続・充実 3.学習センターの継続 【崇仁小学校PTA代表より】 雑誌「ブブカ」の内容は,大変ひどいものである。私たち,地域の大人が子どもたちのためにいろいろな取組を続けてきた。子どもたちの良くなっている点をもっともっと見てほしい。その頑張りにもかかわらず,こんな記事が出される。写真は誤った使われ方がなされている。また,子どもの後ろ姿を載せていることは,保護者として黙ってはいられない。抗議書も送ったが,その回答書の内容も差別的なものであった。 そのため崇仁地域の諸団体が連盟で再度抗議書を送ったが,不十分な解答しか得られなかった。ぜひ多くの地域で話題にしていただき,協力してほしい。 ■第2部 パネルディスカッション −同和地区児童・生徒の学力保障・進路保障に, いま必要なこと,今後,必要なこと − 司 会 : 「同和地区児童・生徒の進路保障」をテーマに進めていきたい。 パネラー: 地域の状況や課題は異なるが,自分のかかわっている地域と本校について話したい。やはり基本的生活習慣が身についていない。その背景を見ると家庭の意識の低さがあり,親の教育力の低さでもある。その理由は「自分もそのように育てられていない。」という部落差別の結果が見られる。 現実から逃げたり,自分の意志を伝えられずにトラブルになったりすることが多い。以前よりは良くなっているが,まだまだ課題も多い。 パネラー: それこそが差別の実態だ。自分の地域も同様であり,いいこと,いけないことを言ってくれる大人がいない。 司 会 : 学力の面から考えると,アイデンティティとの関わりもあるが,どのような取組をしているか。 パネラー: しっかり生活ができていないと学習もできない。学力が伸びるかどうかは自分でしなければいけないと思えるかどうか。保護者も経験不足だったり,経験があってもうまく伝えられなかったりすることもある。その結果,楽な例を見て育ってしまう。人権劇は疑似体験である。多くの疑似体験をすることで「夢」が見えるようになる。「夢」をつかむためにやらなければならないことが増えてくる。その支援をみんなでしているが,まだまだ課題は残っている。 司 会 : なぜ学力格差がうまれるのか。 パネラー: やってもやっても学力が上がらない実態がある。全体が落ち着けば,学力は上がると思っていたが,生活の中に埋め込まれている学力を補強する必要がある。学力分析のデータを見ると,小学校6年生から中学校1年生にうつると落ち込みがきびしくなる。特に速度と距離,文章題などに落ち込みが見られる。また問題から必要な部分を抜き出すことも苦手である。国語は全市と格差が大きい。特に「話す・聞く」「書く」の落ち込みが大きい。メモがとれないようである。客観的な説明も苦手である。保育所での調査結果を見ると「順番を待つ」「最後までやりとげる」ことと学力の関係が大きいことが分かった。これは全体を把握する力や,論理的な思考,ねばり強さと関係してくる。最後までしっかり聞く,大事な点をじっくり考える,順序よくきっちり話す力をつけたい。そのためには日頃から親が家庭で心がけることが重要である。そのために連携した取組が必要である。 パネラー: 自分の地域の子どもたちの現状にも,会話の中に単語が多いということがある。学力の現状にも,同じような課題がある。 パネラー: 高校に進学した生徒が,友達とコミュニケーションがとれないことによって不調を訴えることが多い。言葉の力に弱さを感じる。 司 会 : 高校へ進学した生徒もいろいろな課題を抱えている。高校生相談の様子を話してほしい。 パネラー: 学習施設での学習は近年の大学進学の状況からも効果が上がっている。この中には,いろいろな課題を抱えている生徒もいる。厳しい状況におかれている子どもにとってのモデルとなる大人が身近にいない。この子たちが次世代のモデルになってほしい。 パネラー: 連携がまず大事。1つ1つでは限界がある。うちの地域では保育所,小学校,中学校がコミュニティーセンターに集まって話をしている。一人の子をいろいろな面から見て支えていくことを大事にしている。 パネラー: 大学へ行くことに意味があると思うが,高校以上に支えがなく,やめてしまう子もいる。1人を支えることは10人を支えることになる。地域全体が連携していくというバックアップがないとうまく進んでいかない。保・小・中・高・大が情報を共有化していく必要がある。「ことばの力」を高めていくために,重層的な取組がないと成果が上がらない。保護者にも呼びかけているが参加は見られにくい。崇仁では教育ネットの取組を通して,子どもたちの成長を20年のスパンで考えている。 司 会 : 長いスパンで見るための連携の必要性をさらに感じる。最後にまとめを。 パネラー: 連携の大切さを改めて認識した。学習施設での学習の大切さを教師自身が思っているか,子どもの背景をみているかということをもっと考えるべきだ。自校の新しい教職員にも伝えていかなければならない。もし学習施設がなくなってもやり続けるという気持ちを確認したい。 パネラー: 昨年から統合の話が大きくなってきた。下京中学校への統合に向けて子どもたちの足場を固めていくことが第一。「教育は大人の責務。夢を叶えたものを見て,後輩が後へ続く。」 パネラー: 連携は重要だが,ネットワークを隠れ蓑にしてはいけない。子どもたちの側から考えると,まずは一旦受け止めることをしてほしい。地域の目線で話をしてきたが,目の前の子どもたちを見て一歩踏み出す大人達が,つながれるネットワークにしたい。 【フロアからの意見】 フ
ロ ア : 30年間で何が変わったのかと違和感を覚える。30年間の取組に効果がなかったのか,30年間取組が継続されていないのか,30年間の取組が切り崩されてきたのか。 パネラー: これまでの総括について話すことはできないが,自分は30年間として考えるのでなく,いま,目の前の子どもたちを見ていきたい。施策が機能した部分とそうでない部分がある。機能していない部分に厳しい現状がある。 フ
ロ ア : それぞれの歴史の中で成果はあったと思う。自分は子をもって初めて同和問題と向き合った。下京中学校の統合委員をしているが,この統合は画期的なことだ。崇仁には地域が連携して取り組んできたまちづくりがあった。法が切れても,何がしたいのかを明確にもてる子を育てるために,連携を大切にしたい。地域も学校も,子どもの背景にまで迫って育てていきたい。その意味でも学習施設は必要である。その在り方は下京中学校をモデル校にしたい。 フ
ロ ア : 以前,講演に来てもらった青年の話を聞いて,教師が個々にがんばっていることを知った。この集会でも多くの方の熱い思いを知った。この場,この1回に限らず,私たちも地域や学校から取組を発信していきたいと考えている。その折には,案内をしていくので,積極的に集い,ともに話し合い,発信し合っていきたい。 【第6分科会担当代表より】 点を線に広げ,面へとつなげる取組をしていきたい。 |