第37回部落解放研究京都市集会
パネルディスカッション:テーマ「乳児期から幼児期への保育を考える」 講演,コーディネーター:早川勝廣(大阪教育大学) パネリスト
:岸谷典子(保育所) 箕浦ふじ代(保育所) 中村貴子(小学校) 参加者 :51名(保育所職員26,教職員11,運動団体・保護者10,行政その他4)
1 講 演 子どもの低学力などが問題とされ,文部省はゆとり教育見直しを提起した。OECDの学力到達度調査や一斉学力調査では小・中とも目立って下降はしていない。科学的根拠に乏しい。一方で深刻な低学力の実態を実際に表した調査もある。1989年の阪大調査と2001年の東大調査。平均点が各教科とも大きく下がっている。同和推進校の学力低下が大きい。これまでさまざまな施策を実施してきたにもかかわらず格差が拡大している。 89年と01年とで生活時間が大きく変化している。家庭学習時間53.6→40.2分に低下。反対にテレビゲーム時間が飛躍的に増加。学習習慣が大きく崩れてきている。 ゆとり教育の中で大事にされるべきは,学習意欲・生きる意欲を高めることであった。にもかかわらず,母親に毒物を盛った事件など空しくなる事件が続発してきた。引きこもりが政府推定130万人。ニートは85万人。こうした若い世代が年々増加している。親とのトラブルも増えていくだろう。不登校も毎年10万人以上。高校中退も増加。不登校の原因はいじめ。そして引きこもりが少なからず生活保護を受給。 「対人恐怖」が引きこもり者の共通項。特徴の一側面として,人に怯える。もう一つの側面はその裏返しとして他者への攻撃性。同世代の女性に対しては怖いため,幼女に手を出す。そういう引きこもりばかりではないが,今後,そうした土壌ができていくおそれがある。人が怖いという人間を多く育ててしまった我々のやってきたこととは? 私は,小学校4年の遠足で日の丸弁当を開いた時に貧困の屈辱を感じた。学年の変わり時に自分より背の低い者がいないか見た。チビ同士の競争がプライドを傷つけた。競争を通して人間の尊厳とは何かを考えた。だから,競わされる教育,そして「集団」がきらいになった。しかし,集団なしには人は生きられない。だから,集団でいることを怖がる人間を作らないという思いで,集団にいることが大切だと考え,クラス運営に各班方式を取り入れた時期があった。すると特定の子どもをグループから排除する,されるという問題が出た。人は集団でないと生きられないが,集団にするとそうした問題が出る。そこで,集団ではなく「居場所」が大事だと気づいた。人は居場所がなければ生きていけないということに気づいた。その子どもの居場所を確保してやることが大事。 家庭での居場所はどこか?子どもの居場所は確保されているか?学校・保育所では年齢が低いほど先生と自分との関係が居場所。 5歳児ぐらいになると友達グループが居場所。でも自己主張することにより居場所がなくなるというのが,子ども同士の現実の姿でもある。だからといって,大人が自己主張の場を強制することが子どもの居場所をかえってなくさせることになることを先生は気づいているか。人と一緒にいるだけでほっとできる教育・保育が必要である。不登校は自分の居場所がないから起きる。友達が怖いから,起きている。 子どもが教室で排泄する低学年の子どもの事例。好きな先生のときは排泄しない。子どもは先生との関係の中で自分の居場所を考えている。 自傷行為する事例。先生の気を引くため。子どもは自分の居場所を作ることに命をかけている。 0〜2歳頃までは先生との関係が居場所。4,5歳児は,子ども同士の関係とともに先生との関係「も」居場所に変化する。 「自己確立」とは自分で自分の居場所を見つけること。「自己確立」は,人間関係で自分の居場所を見つけた上で,さらに理想や仕事やいろいろな信じるものなど複合的に居場所を確立できることである。居場所作りができる力が人との関わりを作ることにもつながる。 2 保育所からの報告 前回集会の「乳児保育で大切にしてきたこと」の討議を踏まえ,今回は2,3歳児における「乳児期から幼児期への保育」を中心に発表する。 2,3歳児の保育については,自我の充実を大切にしつつ,友達とかかわりの中で,「みたて」や「つもり」遊びなどを通し,人と一緒に生きていく社会性の芽生えを育むことを重点に置いている。 2歳児の特徴である「こだわり」に対する受け止めの事例として,厚着や汚れた衣服のままで午睡しようとする子どもたちの「思い」を保育者が受け止め,子どもたちが自ら気持ちの切り替えを図り,着替えができた事例が紹介された。また,三輪車を取り合う2人の子どもに保育者が,三輪車で遊びたいというそれぞれの気持ちを伝え,子どもたちが互いの思いを理解し一緒に遊べるように促した事例も報告された。 3歳児は,遠足のときの互いの励ましあいや虫を見つけたときの共感など友だちとの関わりが広がってきている姿を見せる。また,友だち同士一緒で遊ぶときのちょっとしたルールを守ることが,より楽しく遊べるようになることをカード遊びなどの事例を通じて学んだ。保育者は,そうした場で,子どもたちが遊びを通して共感や学びが生まれるようはたらきかけたり,見守ったりしている。 2歳児から3歳児へ移行するときの保護者の不安に対しては,3歳児の生活習慣の自立した様子,友だち関係の広がりを話し,理解を得ている。 さまざまな人との関わりは子ども成長するうえで大きな要素となる。小学生との交流や中学生・高校生の保育体験,デイケアセンターのお年寄りとの交流を積極的に進めている。保育士も小学校教師と互いに参観したり,交流したりしている。 3 パネルディスカッション コー:新入学に気になる子どもを見かける。小学校での対応を聞きたい。殺伐とした事件が続発しているが,小学校で一番大切にしていることは何か?という質問が出ている。これを含めて小学校からのパネリストに発言をお願いしたい。 パネリスト(小学校):
保育所が保護者との関わりで大切な存在であると感じた。小学校でも子育てですごく悩んでいる保護者が多い。保護者と関われる時は個人面談や家庭訪問,参観日程度しか機会がないが,せいいっぱいやっている。保育所では些細なことでもしっかり対応している。 学校でつらい勉強を投げ出すのではなくやってみようという力をつけてくれていると思う。 就学前教育を受けない子を担当したことがあるが,集まること,並ぶことなどまったくできなかった。保育所の保育を受ける大切さがよくわかった。保育所でどのように力をつけて入学してくるのかもっと教師は知るべきである。登校をいやがる子どもに対して,先ずは興味に応え心地よいところだと思えるように実践したことがある。 学校では,授業を通じてわかる喜びを教えること,そのための授業の充実を大切にしている。また,他児からほめられたり達成感を味わうなど自尊感情を高めることも大切にしている。 コー:乳児期から幼児期をどう育ちをつないでいくかがテーマ。新しい環境に適応していくためにどう対応しているかを話していただきたい。 保育所:
幼児と乳児とそれぞれの保育所が交流しあっている。乳児・幼児合同職員会議を持ち,食事のことなど子どもの姿を研究交流している。互いに職員参観を行っている。 保育所:
職員相互で子どもの見方について,打合せや職員会議などの場で共通認識を持つようにしている。保育内容について今年は2歳児と3,4歳児との交流を意識している。 コー:異年齢交流保育の実践についてはどうか? 保育所:おみせやさんごっこや給食,散歩などいっしょに交流している。幼児のクッキングに乳児が見に行くこともしている。 コー:重層的な居場所をつくることで居場所に広がりが出てくる。年齢差から出てくる課題は何か?年長の子どもが年少の子どもをみるときに大切にするべきは思いやりであると考える。異年齢だからこそ思いやりが思いやられる子どものプライドを傷つけずにできるのではないか。別の保育所の取組を紹介してほしい。 会場:
世代間交流,保育・小学校の交流を意識している。チャレンジ体験,ふれあい体験などを通じて,小学生の子どもから自主的に取り組み,不登校の子どもが居場所を見つけたという経験もあった。保育に幅が出るなどのよい点があった。 コー:保育所は,自分たちが育てたものを引き継いでほしいという思い,小学校は教科の流れから保育所に子どもを送り込んでいくという実情が,それぞれある。それぞれに保育所と小学校との双方向が大切な時代。小学校のなかだけで行うときとは違う体験が見られたところがあれば発言してほしい。 小学校:去年,近くの保育所が小学校の空き教室に1か月ほど仮移転した。それを機に交流した。1年生が発表したり3年生が紙芝居をしたりした。同年齢で発表するときと保育所で発表するときとはまったく違い,保育入所児の前では生き生きと,教えてあげるという姿勢で自分たち自身もすごく楽しんでいた。 コー:大人でも小さい子どもを見るだけで癒される。子どもはもっと感じている。癒しが今の小学校,中学校にすごく大切である。それが居場所にも繋がる。学習発表を同年齢の中ではなく,幼稚園,保育所,1年生を対象に発表したりすることにより,わかってもらうよう努力する中で自らが学習することにつながっている。 出身園ごとに入学後の友だちグループができるが,他園との園児交流により,入学後も互いに友だちになろうとする自然な交わり発生することがこれまでの連携の経験で明らかとなっている。 小学校に入学後,幼稚園,保育所,公立,私立でちがうという調査結果がある。小学校教師へのアンケートでわかったことは,私立幼稚園では早期教育,椅子に45分座る,鼓笛などを重視。公立幼稚園では自信をつけるなど。保育所では問題を自ら解決できる,体力遊び。しかし,どのような就学前の保育を受けてきても小学校では発達を保障しなければならない。 会場:当保育所ではワンフロアでの異年齢の活動を重視している。年長児の遊びや食べ方,衣服の着脱などを見て,年少児があこがれる。年長児は散歩や凧揚げなどしながら年少児への思いやりが出てくる。など,よい影響が出ている。保護者へも子どもの様子を伝えている。 コー:先生が教える場合と自から学ぶという場合があるが,自ら学ぶということが異年齢保育の長所でもある。 4 まとめ この分科会は,これまでから保小連携をテーマに交流をしてきた。 ニートや引きこもりの問題などを通じ居場所と自己確立の大切さが話された。大人の先回りではなく見守りの大切さは常に話されてきたことだが改めてその大切さを知らされた。京都には子どもを第一に考えてくれているこうした先生方がたくさんおられることを大変頼もしく思う。各職場での取組みになるよう最後にお願いしたい。
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