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第34回 第二分科会

分科会 啓発】

       差別の実態と市民啓発

 〜地域に根ざした教育実践活動を通して啓発を考えよう〜

      [日 時]  2003年2月15日(土)午後1時30分〜4時30分

      [場 所  京都会館 第1ホール

 

    第1部   弥栄中学校1年生による「人権劇」の発表

 

    第2部   弥栄町学校森田恒雄校長による講演

 

    第3部   パネルディスカッション

 

 

     コーディネーター  澤田 清人(京都市立弥栄中学校教務主任)

      パ ネ ラ ー   森田 恒雄(京都市立弥栄中学校校長)

                  上宮 厚慧(部落解放研究東山実行委員会委員長)

                  安田 茂樹(部落解放同盟東三条支部支部長)

                  森口 健司(徳島県板野町立板野中学校教諭)

 

    参加者数 496名

 

 

 

内  容

 2003年2月15日(土)京都会館第1ホールで第34回部落解放研究京都市集会第2分科会(啓発)が行われた。はじめに弥栄中学校1年生の生徒による「共生」という人権劇からはじまった。この劇は前年の学校の文化祭で行われた劇で、内容は運動会を控えた学校のあるクラスに筋ジストロフィーの生徒がいる。そのことで「俺たちのクラスは優勝できない。あいつのために、なぜ俺たちはいつも我慢をしなければならないのか!」と不満の意見がでた。それに対して「そんなことを言うのはかわいそうだ! あやまれ!」と口論になるが、クラスの多くの生徒は何かがおかしいと疑問を持ち始める。そして生徒たちは障害をもっていることで不利益があることに気づくと同時に一人ひとりが自分の置かれている立場に目覚め、辛く悲しい思いをクラスの仲間に訴える。父親がいないこと、また自分が被差別部落出身であることを語りだす(これら生徒のセリフは教師が教えたりしたものではなく生徒自身が考え何度も何度も書き直してやっと出来上がったセリフである)。やがて最後には他のクラスにも車椅子で競技に参加する生徒を加えることで条件をそろえていくことをクラスで決定し、学校全体に働きかけるところで劇は終了した。

 この劇を受けて弥栄中学校の森田校長先生が、弥栄中学校に赴任して14年目となるが、以前の弥栄中学校から今日の状況に至るまでの取り組みや、自分自身が「同和」教育とかかわってどのように生きてきたのかを講演された。

 14年前の生徒の中には将来に対する夢や希望を持てない実態があった。「この生徒に責任があるわけではない。たった3年という短い時間だけれど、なんとかこの子たちに夢や希望を持たせてやりたい!」こんな思いから取り組みを始めた。そしてはじめに「とにかく生徒と向かい合う」こと、そして「生徒指導はできるものがやる! しかし教科指導は自己の持っているすべての力でやろう!」と教師たちに呼びかけた。また、「教室に入らない生徒がいたなら教室以外の場所でもやれ!」これらの実践から少しずつ教師と生徒との関係に変化が起こりだした。やがて人権教育を推進することで自己の社会的立場を自覚し、そのためにがんばって勉強することが問題の解決につながる考えを持てる生徒に育てていくことができた。しかし、こうした状況ができるまでは教師自身がまず勉強した。当時は東三条の地で二つの差別事象が起こり差別の現実を教材化することで大いに学習したことが大きな原動力となり、今日につながっているといえる。また校内職員「同和」研修や保護者に対する啓発の取り組みをすることで、さまざまな問題発言が飛び出したが、これに対して地元の運動体から「本当に差別の問題を理解するまでいろいろな問題発言は発生する。しかしその発言を理解してもらうために何回も何回も繰り返し啓発をやればいい」と助言されたことが勇気となり、内容の充実につながった。そして結果を出すことが重要である、という講演内容であった。

 残念ながら時間に制限があることで講演は一応終了し、次のパネルディスカッションに移っていくが、森田先生の経験談はこれからの教育を示唆する上で貴重なものといえるため、著書に記してほしいものだ。

 最後にパネルディスカッションは、それぞれの発言内容と合わせてパネラーの紹介も行い、この報告とする。

 

上宮厚慧(部落解放研究東山実行委員会委員長)

 1991年から実行委員長として活動に参加させていただいた。結成当時はどちらかと言えば、それぞれの立場を優先し互いの関係があまり深まることはなかったようだ。しかし、同じ目的、同じ目標に向けた活動を通じて少しずつ相互理解が深まってきたように思う。このことで、それぞれの本務ともいえる活動に声援を送り、時には直接参加する中で応援し合う関係が生まれてきた。先ほどご覧いただいたように、弥栄中学校の生徒による人権啓発劇の発表にもつながるまでに至った。この実行委員会の活動が、弥栄中学校のすばらしい教育実践活動の一助になったと自負している。また、これまで「同和」行政が行われてきたことで目に見える改善事業は一定の役割を果たしてきた。今後は人々の心の中にある差別観念をなくしていく啓発活動や弥栄中学校の教育実践活動のような取り組みを充実発展させるために、実行委員会として頑張っていきたいと思う。

 

安田茂樹(部落解放同盟東三条支部支部長)

 確かに以前からさまざまな人々がそれぞれの立場で精一杯この問題の解決に向けて努力されてきたが、明るい展望が見えない状況が長い間続いてきた。この部落解放研究東山実行委員会の活動を通じて同じ目標にむかって前進する。この営みが今日の弥栄中学校の成果につながっているとは思うが。弥栄中学校の先生方の努力と、それを全面的に支持支援されてこられた森田校長先生の人柄が、このようにすばらしい学校になったと思う。生徒たちの輝いている姿を見て、弥栄中学校の先輩としてうれしく思いそして誇りに感じる。今後は特別施策としての「同和」事業は終了した。しかし、差別はなくなっていない。差別がある限り私たちは運動を続ける。また弥栄中学校の取り組みは、これまでのように一人ひとりを大切にする教育を継続発展させていってほしいと願うと同時に、未来を生き抜くための学力の保障、そのために就学前も含めた基礎基本の学力を充実させる取り組みも必要だろうと思う。人間らしく生きていくための生活に根ざした運動をわれわれから発信していきたい。また、東三条の地域では少子高齢化が特に深刻な問題としてある。地域そのものが自治機能の役割を担えない状態にある。こうした状態を克服するために東三条の地域では、たくさんある団体が協力し合って、問題の解決にむけて現在ともに取り組んでいる。例えば被差別部落だけではなく、周辺地域も含めて住みよい町を創っていくことを目指した三条まちづくり協議会の活動を行っている。啓発に関しては、この部落解放研究東山実行委員会で活動を行っている。さらに教育の分野においては、東三条「同和」教育推進協議会を組織し教育問題に取り組んでいる。こうした取り組みの次の段階ともいえる高齢者の問題についても、不十分ながら現在活動を行っている。現在は有効な活動とはなりえていないのが実態であるが、高齢者が安心して安全に暮らせる町にするために今後も努力していくものである。そのためにも生活に根ざした活動を推進する。

 

森口健司(徳島県板野町立板野中学校教諭)

 森田先生の講演にあった「生徒が生徒を変えていく」、この営みが教育を機能させていくと思う。そして信頼と尊敬の関係が教育の機能を発揮させると思う。また、本日の弥栄中学校1年生の人権劇発表のようにいろいろな檜舞台と出会えることで、子どもたちは自分自身に誇りを持ち自分を取り戻すことになるのだろうと思う。こうした実践活動が行えるのも、安心できる子どもたちの人間関係があり、学ぶ喜びや分かる喜びを実感するといった日常的な教育の営みが、このような発表につながるものと思う。より具体的には子どもたちの主体的な学びの営みが重要である。3年前、板野中学校の生徒と弥栄中学校の生徒でジョイント人権学習をする機会があった。そこに参加された方から頂戴したレポートを紹介することで、私自身のこれからの同和教育・人権教育・教育そのものの有様を考えていく問題提起とさせていただく。

 「板野中学校の公開授業における発言を受けて、徐々に弥栄中学校の生徒の目が変わっていく。それが手に取るように発言にも表れてきているのも分かった。時間が許せば、私も何かを言いたいという気持ちにさせられた。そんな気持ちにさせてくれたのは、中学生の皆さんの姿だった。ひたむきに、現実に立ち向かい、一生懸命家族のことや友達のこと、これからの生活のことを見つめ、さまざまな揺れる思いを語っていく。その作業は決して簡単なことではないが、その先に信頼する友達が見えるから、心臓が張り裂けそうな思いを乗り越えて、勇気を振り絞れるんだということを見せてもらうことができ、私もものすごい励ましを頂くことができた。生徒の心に寄り添うためにスクールカウンセラーなどの配置も検討されたり、実際に実施されたりしているが、全体学習、全校人権学習という場は大きなカウンセリングの場になっているなと思う。一般的なカウンセリングは、密室でクライアントとカウンセラーとで行われ、お互いに自己開示することで何かをつかんでいくが、全体学習や全校人権学習というのは公開の場で大勢で行うので自己開示にはとても勇気がいる。しかし、一度つながると、大勢から意見をもらったことでものすごい励ましが得られ、自分に自信を感じられると思う。今回ジョイント人権学習を参観させていただいてそのことがすごく分かった。発表を終えた友達に同じグループの仲間がねぎらいの言葉をかけているところや発言者の顔がふっと落ち着いたとき、きりっと引き締まったことを目撃したからである。表現する喜び、そういう学びあう喜びを共有する集団を作り、そういう授業を作っていく。人権教育やまた同和教育が教育として確かに機能していく。そういう道筋を明らかにしていくのが我々に問われている実践である。そんなことを今感じております」

 森田先生から教育の可能性というものを教えていただいた。本日の講演を胸に刻みながら明日からの教育実践に取り組んでいきたいと思う。

 

森田恒雄(京都市弥栄中学校校長)

 最近、弥栄だからできたとよく聞くが、弥栄でもできるのだということを最後の言葉とする。

澤田清人(京都市立弥栄中学校教務主任)

 同和問題はまだある。同和地区から通ってくる子どもたちもある。施策がなくなったからといって、行政がなくなったからといって、同和教育、同和行政がなくなるわけではない。教育と啓発という大きな柱をしっかりと見つめながら、今後もさらに取り組みを進めていくこと、このことを会場にいる皆様方と確認して、パネルディスカッションを終えていく。

                                                          以 上

 

       

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