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第48回人権交流京都市研究集会
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第1部 報告 (13:30〜15:35) 報告 1 日野貴博さん (学習ボランティア団体Atlas) 報告 2 山本知恵さん (京都YWCA自立援助ホーム「カルーナ」) 報告 3 許伯基さん (在日大韓基督教会京都南部教会) 報告 4 廣瀬光太郎さん (NPО法人ふれあい吉祥院ネットワーク)
第2部 パネルディスカッション (15:45〜16:25) コーディネーター 藤 喬さん (NPО法人暮らし応援ネットワーク)
分科会責任者 朴実 (京都・東九条CANフォーラム代表) 司会進行 金周萬 (京都・東九条CANフォーラム事務局長) 記 録 宋基和 (京都・東九条CANフォーラム) 庶 務 小林栄一(京都・東九条CANフォーラム)
京研集会第2分科会報告
本年の第2分科会は、「共にいきるまちづくりを目指して〜子どもの貧困を考える〜」をテーマに開催された。基調報告にも述べられている様に、現在の日本社会はヘイトスピーチ・ヘイトクライム団体による差別・排外主義運動が強まっている。また新自由主義や企業のグローバル化等による雇用の劣化・社会保障の後退が進み、格差・貧困が拡大している。そしてその象徴として、子どもの貧困がクローズアップされてきた。貧困に曝される子どもとその親たちに対し、どのように支援を行っていけばよいのか。本分科会は、各地で貧困に曝される子どもや親たちへの支援活動を続けている団体からの報告をうけながら、子ども達が大切にされる社会を展望する事を課題として設定された。 分科会第1部の冒頭、主管団体の京都・東九条CANフォーラム代表朴実(パク・シル)さんの挨拶があった。京都・東九条CANフォーラムは、2009年に結成されて以降「多文化共生のまちづくり」をスローガンとして東九条での活動を継続してきた。そして2011年第42回人権交流京都研究集会から第2分科会の主管をしてきた。現在の日本社会は、在特会等の排外主義の強まりや津久井やまゆり園事件にみられる優生思想の蔓延等「多文化共生のまちづくり」と真っ向から対立する事象が相次いで起きている。多文化共生とは、国籍・民族の違いはもとより生まれも生い立ちも、子どもも高齢者も、女性も男性も、障害のある人もない人も全ての人々の人権が尊重され、生き生きと暮らせることである。今回の分科会では子どもの貧困をテーマとしているが、子どもが大切にされない社会が多くの人々を大切に出来るはずがない。子ども達の生活が保障され、教育が平等に受けられ、健康が守られる権利が保障されなければならない、そのためにもこの分科会を成功させようと訴えられた。また東九条では現在「京都駅東南部エリア活性化方針策定案」が作成中であり、新しいまちづくりに向けた京都市行政と地域住民や各種団体との協働が始まっている事が報告された。 続いて各団体からの活動報告が行われた。最初の報告は、生活困窮者自立支援法による守山市の「カンフォーラ第2の学校」と名づけられた学習支援事業の委託を受けて、子ども達の支援に取り組む「学習支援ボランティア団体Atlas」の日野貴博さんから報告が行われた。守山市の事業は行政の直営で、Atlasがボランティア団体として協力する形を取り、市内在住の生活困窮世帯の小学校高学年〜高校生5〜10名が参加して週1回開かれている。参加するボランティは9割が大学生だが、中には学習支援を受けて進学した大学生もいる。学習支援の趣旨は、学力向上が狙いではない、子どもが「居場所」と「出番」を感じられるたまり場を作ることであると報告された。貧困線は125万円以下の収入世帯といわれるが、相対的貧困率が16,3%、ひとり親世帯では54.6%も存在している。子どもの貧困で見ておかねばならない事は、第1にその生存権が侵されている事であり、第2に貧困が再生産され階層化する事、第3に経済面での社会的損失は2,9兆円という試算もある。また生活保護世帯の子どもの学歴調査では、中卒と高校中退が73%という報告もある。こうした状況に置かれた子ども達に、大人や社会が関心を持ち、関る事の大切さが提起された。日野さんの関わったケースでは、お金が無くて眼鏡が買えない子やAtlasから家に帰りたがらない子、学習支援で用意するお菓子がその日の1食目という痩せた子もいた。この様に安心できる衣・食・住の確保がされていないのが貧困の現状だ。一方で現在は以前と違い、一見綺麗な服装をしてスマートフォンも持っているため貧困は見えづらいといわれる。しかし貧困家庭の子どもは、貧困家庭と思われたくない・見られたくない、周囲の大人を含め誰も信用できないと思っている。また周囲の恵まれた子ども達への「うらやましい」という意識があり「なんで自分が」という劣等感を持っている。また「貧困のままでいいや」と「ちゃんとした大人にならねば」と両極端に振れやすい。頑張っても無駄と最初からあきらめているケースも多い。残念なことに学習支援は、夢・希望等の意欲を喪失している子ども達には届かない。現在問題化している給付型奨学金にしても進学するという夢・希望のない層には届かない。子ども食堂は子どもの経済状況や夢・意欲の有無に関らず支援出来るが、学習支援は子どもたちに夢・希望等の意欲がないと必要性だけでは子ども達に届かない。参加する事による面白さが必要だ。それが学習支援プラス居場所作りという事だ。学習支援の中では、子ども達1人1人の個別支援を活動の中心にしている。レクレーションもイベントもやるし、「あすのば(貧困家庭の子ども達の全国集会)」にも参加してきた。弱者救済ではなく、子ども主力で力を発揮してもらうためだ。子ども達が求めているものは、安心できて共感してくれる大人の存在であり自分でチャレンジ出来る機会である。安心できる大人が地域にあちこちに居る事こそまちづくりだと思う、と述べて報告を終えられた。 続いて自立援助ホーム「カルーナ」を運営する京都YWCAの山本知恵さんからの報告があった。子どもたちの曝されている貧困状況の基本的部分はAtlasの報告に譲り自分は実践報告を行いたいと述べ、自立援助ホームの説明を行った。自立援助ホームは児童福祉法の第2種社会福祉事業「児童自立生活援助事業」として行われており、全国で129か所(2017年1月現在・内京都2か所)が存在している。15〜20歳までの家庭で暮らすことが出来ない、あるいは帰る場所のない子どもたちが自立を目指して共同生活する場所として開設されている。カルーナは2015年4月に定員6名で開始されたが、その役割について山本さんは、第1に安心安全な居場所を確保する事、第2に自立のための就労支援・修学支援、第3に社会人としての生活能力の獲得を挙げられたが、就労支援に持っていくことが極めて難しく生活支援がメインになっているのが現状と報告された。開設以来12名の女性を受け入れてきたが、利用開始時の年齢は、15歳1名・17歳2名・18歳6名・19歳3名となっている。また利用開始前の居場所は、自宅5名・シェルター2名・児童相談所1名・少年院1名・児童養護施設3名となっている。来るまでに全員が虐待や不登校等を経験しており、大人を信用できない、家族との関係は無理という事で共通しているし、発達障害や精神障害を抱え込んだ者もおり、人間関係を作ろうとせずに自分を守っている。現在利用中の4名は無職で(内3名は生活保護を受給)、通学・通信教育が2名いる。今までに6名が退所していったが、その理由は、20歳に到達し生活保護受給による自活が3名、学生寮・シェアハウスへの入居が3名となっている。支援内容は、生活リズム作り・学習支援・就労支援で1人1人の個別対応を行っている。退所した後の自分の生活をイメージしてもらう準備期間として捉え、自分の生活を自分で考え実行するお手伝いをしている。京都YWCAの多様な事業の中での交流により新しい体験をしてもらい、1人1人が活躍できる場を作る事を心がけている。カルーナに入居する者は親の経済的貧困を受け継ぎ、「大人モデル」が不在で将来の展望を持てないでいる。それだけに「人との関係作り」を経験してもらうことが大切と考えている。自分は福祉にかかわってきた者ではないが、自分の倫理観を押し付けることなく一緒に悩むことが大切と考えている。そして「大人って信じても良いのかも…」と思ってほしくて支援を続けている、とその報告を終えられた。 3番目に在日大韓基督教会京都南部教会許伯基牧師から、東九条の子ども食堂の報告が行われた。昨年9月以降毎週木曜日に開催し、現在は平均70食を提供している。子ども食堂と名づけてはいるが、親子連れのケースも多く働くお母さんへの支援にもなっている。一人での食事は寂しいからと言って来られる独居高齢男性の常連もいる。更に女子中学生が数人で来て食事の後に宿題をしている等、皆さん長時間おられる。この様に地域の共生食堂といってもよい役割を果たしているが、貧困の子どもがどのくらい来ているのかはまだわからない状態だ。本当に子ども食堂が必要な子ども達に届いていくには、もう数年かかると覚悟している。食堂運営には毎月赤字が出ているが、開設時のお祝い金や外部献金を取り崩しながら頑張っている。また時々セカンドハーベストからの支援も受けている。今後の課題として、本日の京研集会に学びながら行政の補助金を受けることも考えたい、またボランティをうけいれて様々なイベントにも取り組みたい、南部教会で行っている語学教室と協力し合って学習支援にも取り組みたい等の展望を語り報告を終えられた。 報告の最後は、ひとり親家庭の子どもの居場所づくりを行うNPО法人ふれあい吉祥院ネットワーク廣瀬光太郎さんが行った。ふれあい吉祥院ネットワークは、2005年結成以降自治連や社協等地域の役員と一緒にまちづくりに取り組んできた歴史を有し、6年前から「いきいき市民活動センター(旧隣保館)」を京都市から受託している。こうした活動を経て、京都府の「ひとり親家庭の子どもの居場所づくり事業」に応募し昨年7月に「ししまる食堂」を開始した。開始にあたり学校へチラシを配布し、校長や教師の応援も得てきた。今年度は春・夏・冬休み対応型で出発したが、次年度は週1回・年50日開催を考えている。施設は旧隣保館という事もあって厨房施設が完備されており、この様な事業に最適だったといえる。現在の登録人数は小学生9名で、学校に集合してからスタッフが「ししまる食堂」まで誘導し、終了後のお迎えは親にお願いしている。利用料は1回100円で、地域の高校生がボランティアで入り、またワーカーズコレクティブに食事作りを委託している。この様に地元のネットワークを最大限に活用している。途中でやめられない事業なので、何より地域の信用を得る事、行政の事業予算を活かして行く事も大切と考えている。吉祥院に住んで良かったと思えるまちづくりの一環として、今後も「ししまる食堂」を継続していきたいと述べて報告を終えた。 その後休息を挟み第2部のシンポジュウムが、藤喬さん(NPО暮らし応援ネットワーク代表)をコーディネーターとして行われた。冒頭参加した教師から、本日の報告を聞いて学校も頑張らなくてはと感じた事や教師こそ子ども達に信頼される大人にならねばならない事、貧困や不登校の問題を学校のみが抱え込まずに地域との連携を大切にして真のプラットホームにならねばならないと語られた。その他質疑応答の中で各報告者の補足が行われると同時に、学校や教師と連携の問題、今後どの様な支援を子どもや親に対して強めていくのか等の方向性に関しても各報告者から説明された。 この様に今回の分科会は、子どもの現状により近いところで接している各団体の報告を受ける事により、内容の濃い議論を展開することになった。そして今後も子ども達が大切にされる社会づくりを目指していこう、とのコーディネートの纏めをもって分科会は終了した。 |