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第51回人権交流京都市研究集会

  分科会

人権確立を目指す教育創造

 

                   2号館2201教室   

  

基 調 講 演

 内田 龍史 (関西大学 社会学部教授)

 

パネルディスカッション

コーディネーター  坂田 良久 (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

  パネラー   小島 直也 (京都市小学校同和教育研究会)

        北山 千尋 (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

        西田 信彦 (部落解放同盟京都市協議会)

 分科会責任者 松井 靖至   (京都市小学校同和教育研究会)

  分科会庶務     弓削 雅哉   (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

 

 

 

 

  第3分科会の流れと基調講演のおもな内容

   開始にあたって,第3分科会の方向性とすすめ方について,庶務の弓削雅哉さんから説明がなされた。続いて基調講演の内田龍史さんの紹介を分科会の責任者である松井靖至さんが行った。基調講演では,『部落問題の現状と部落差別解消の方向性』をテーマに,講演者である内田龍史さんの自己紹介から講演はスタートした。前年度の第50回京研集会で第3分科会の基調講演者である妻木さんと大学院の同級であり,共に社会学の視点から部落差別の実態調査やインタビューを通じて同和問題と関わってこられたことが紹介された。講演者の著作である『部落問題と向き合う若者たち』(解放出版社)の中で取り上げた部落出身の若者たちの聴き取り調査で,ライフヒストリーという視点で部落差別の現実をルポルタージュとして紹介された。著作の動機は「十把一絡に部落の人々と捉える考え方に疑問を持ち,さまざまな人間模様の真実を伝えたい」であったと述懐され,差別の現実に向き合う若者たちの姿を実例として紹介された。

講演は,@部落問題の現状,A目指すべき部落解放像の大きく2つのテーマで展開された。

@    部落問題の現状では,まず結論として「部落問題を知らない,認識がないという若者たちが増えている」,「情報化社会の中で,部落の人・場所が暴かれ,マイナスイメージがインターネット等で拡散されている」という大きな問題点を指摘された。

続いて,部落差別の実例として著作の「部落問題と向き合う若者たち」で聴き取りをされたAさん(三重県の女性)とBさん(佐賀県の男性)を紹介された。Aさんは,交際相手の母親から結婚を反対され,今後の交際でも結婚を反対されるなら生きていても意味が無いと思い悩み,手首を切るという事態になった。実母が気づいて一命は取り留めたが,心に深い傷を負ったことなどが紹介された。Bさんは,交際相手の彼女が両親から「親子の縁を切る条件なら,勝手にしなさい」と言われ,親子関係を切ることはできないと結婚の断念を告げられた。そのことを実父に事実として告げると,「俺がこんな所に生まれて済まない」と謝られた。父にこんな言葉を言わせてしまう差別をなんとかしたいと思い,差別と闘おうとする動機になったことなどが紹介された。

今も残る差別の現状に続いて,部落へのマイナスイメージを掲載するインターネット上の記事や,ヘイトスピーチの蔓延,差別を扇動する身元暴きなどが,2016年12月に施行された「部落差別解消推進法」の成立の要因にもなったことを説明された。特にインターネット上の部落問題の言説を,@えせ同和行為⇒こわい,A逆差別意識⇒ずるい,B寝た子を起こすな⇒だまっておけ,という典型的な表象を偏見事例として指摘した上で,政府や行政の「施策」の誤解や無理解が生み出していると指摘された。

講演者が勤務していた大学のゼミナールで,大阪府箕面市のある被差別部落をフィールドワークする取り組みを行う中で,学生たちに地域の事前学習をさせると,インターネット情報では「治安が悪い地域」と表示され,「危険度が高い」や「犯罪率が高い」などの偽情報も多々あることをインターネット情報の実例でも紹介された。実際に学生たちが現地視察で訪れると「住みやすそうな地域」や「生活環境がよい地域」などという感想が述べられた。事実を「知らない情報」は,鵜呑みにしてしまうという典型であって,その情報の拡散が,差別の温存や助長を引き起こしていると指摘された。

また,2017年に実施された内閣府による『人権擁護に関する世論調査』では,「部落問題を知らない」と答えた割合は全体の2割弱に及び,10代の若者は30%に及んでいることが紹介された。

A    目指すべき部落解放像については,「部落差別の撤廃」と「当事者のエンパワメント」という2つの視点で提言が述べられた。

「部落差別の撤廃」には,前述の実例からも指摘した「知らない情報」を鵜呑みにせず,「差別の現実から学ぶ」姿勢とその必要性が強調された。

「当事者のエンパワメント」を高める取り組みとして,@部落問題の知識として,差別は自己責任ではなく,社会的責任であることを確認。A運動への多数参加。B町づくりの実践などを含む解放運動への肯定的イメージ。C部落問題を語り合える人の存在。部落出身者同士でもそうだが,部落出身者以外の人と語れることで,よりポジティブな思考になる。D部落というコミュニティ意識の高さ。わが町やわがムラを誇りと感じること。の5点を指摘された。

特に,@部落問題の知識には,差別の現実の学習とともに,差別は社会的責任であるという学習が両立される必要があると強調され,前述の差別の現状で取り上げられたAさんが「もっと早く,差別は社会的責任であると認識していれば,差別する人の責任を追及でき,解消に向けて行動できたのではないか」と振り返っていることを例として説明された。また,親が部落出身であることを子に告げることをためらうことも、差別の現実であると説明された。

さらに,差別解消の突破口として『接触(出会い)理論』の重要性を主張され,差別をする側であるマジョリティ(多数派)との信頼関係を構築することが,マイノリティ(少数派)の自己肯定感の高揚にもつながり,お互いの異なる立場を前提にして,アイデンティティを丸ごと承認することが大切であると指摘された。

最後に,教職員が多いフロアの方々に向けて,「部落問題を語り合える人の存在」になるために何が必要かについて説明された。そのためには,前提として教職員が部落問題を学んでいることが大切で,頼りにされる存在であり続けてもらいたいという考えとともに,仲間づくりと信頼感の醸成のために,子どもたちどうしを仲間としてつなぎ合わせる役割を教員としての専門性や他者とのつながりを生かして働きかけてほしいと主張され,講演を締めくくられた。

 

  パネルディスカッションの内容について

後半のパネルディスカッションでは,まずコーディネーターの坂田良久さんから,パネリストとして参加された3名の自己紹介と共に,基調講演の感想が求められた。

小島直也さんは,小学校での実践で「子どもたちを差別する側にも,される側にも立たせたくない」という意識のもとで,「正しい知識こそが偽情報や偏見や誤解から解放されることにつながる」という指摘に共感できると述べられた。

続いて北山千尋さんは,中学校での実践の中から「逆差別はずるい」という考えを中学生は持っていると感じるが,「なぜ,ずるいと感じるのか?」を問い直す必要があると感じた。また,関東地方の先生方との対話で,人権問題の学習の中で同和問題の取り上げられ方が少ないことを実感したことなどが紹介され,人権問題の学習をカリキュラムとして時数を確保することが難しい現場の実状を指摘し,よい知恵があれば教えて頂きたいと述べられた。

西田信彦さんは,地元での活動を立ち上げ,和太鼓演奏を中心に活動中であることを紹介され,自らが中学生のときに,学習センター(学習施設)に部落外の生徒を誘ってみた経験を話され,そのときの担任の先生が「自分の考えどおりにやってみなさい」と後押しされて,仲間も自分を認めてくれたし,先生方も見守ってくれた。これが現在の活動を続けている原動力になっていると述べられた。  

続いて,コーディネーターから実践の報告を求められ,小島直也さんは,小学6年生A児との関わりを紹介された。A児の現状や家庭環境の様子から,担任として学習の支援のしかたを母親に紹介したが,「社会に出たら,そこまでの支援はないので,子どもが理解して行動して欲しい」と願われた。

  自己肯定感を持たせて,自分自身を変える手立てや取組を続けて,家庭訪問ではA児の成功や成長を取組と共に紹介した。学習に向かう姿勢作りとして,問いかけや発表の場面でA児を中心に働きかけ,作文も苦手意識を取り除くために,聞き取りからまとめるなどの試みを繰り返した。人権学習ワークシートの記述を保護者にも提示してコメントを書いてもらい,さらに感想を学校全体にも紹介するというスタイルで取組をすすめてきたことが紹介された。

コーディネーターの坂田さんからA児との関わりで,成長したと感じられることは何ですかと問われて,小島直也さんは「LGBTsの人権学習の中で,周りの人と関わるときに,普段から相手が性的少数者であってもなくても,その人たちがいることのよさを伝えていけばよいと記述していたこと」などが成長の表れであると主張された。

西田信彦さんは,地元の活動の中で,小学生どうしでのコミュニケーションがとれない現状が気にかかり,自分で「考える」ことの重要性を,和太鼓の演奏をつくり上げる際にも注力したことを説明された。また,気になる親の行動として「親子の会話」を実例に説明された。子どもたちの演奏の感想が,誰もが述べられるものにとどまり,わが子の成長の姿や課題を見出すものには至らずに,子どもの励みにはならない「うすい会話」になっていると危惧されている。また,演奏会間際の練習を家庭の都合で休ませることで,子どもの責任感が少なくなり,まわりのサポートに対する有り難さを感じられなくなってしまっている現状を変えていくためにも,よりよい仲間づくりのために信頼感を高める取組の重要性を痛感していると述べられた。

コーディネーターの坂田さんからは,親の世代と小・中学生であった時代に関わったベテランとして,私たちにもその言動の責任があるのではないかと指摘された上で,現状の実践で何が課題としてあるのかを述べて欲しいと向けられた。

北山千尋さんは,かつて向島の地域では「団地の子と遊ぶな」という言動が見受けられた。そこで,勤務校では『変わる,変える,そして輝く』というスローガンで取り組みをすすめている。保護者からの発案で,変わるために,小学生から制服を導入している。ただし,生活保護世帯が多い地域ではあるが,生活実態に「困りがない」ことを感じている。食事を毎日2食ですませる子どもがそれを当たり前と感じている生活習慣を,『考える力』をつけさせることで,「本当に,それでいいのか」を問い続け,クリティカル・シンキング(批判的思考)させることで子どもたちにエンパワメントさせたいと考えていると述べられた。

ここで,コーディネーターの坂田さんからフロアにおられる方で,現状の中で感じておられることはないかとマイクを向けられた。午前中の全体会で基調提案をされた向島秀蓮小中学校の李大佑さんから,「子どもに力をつけ,親に判断力をつける」ことを目指して実践していると述べられ,少数者(マイノリティ)に温かい目線を持たせることを念頭に,日々の実践をすすめていると発言された。 

さらに北山千尋さんは,合理的配慮や個別的配慮も当然のように行っているが,最終的には個人としての力をつけることが大切だと考えていると述べられた。それは,人生の生き方として「敷かれたレール」を進むという生き方では,挫折を味わったときに大きく転落してしまう危険性があり,そのような場面を何度か見てきたと話された。生き方は自己選択の繰り返しであるが,「考える」ことを日常的に行わなければいけないと感じていると述べられた。

小島直也さんは,確認プログラムテストの成績から学習面での格差を感じているが,小ステップの取組で達成感と成功体験を積み重ねることが大事であると考えていると述べられ,それは仲間づくりにも結びつくことであると考えていると締めくくられた。

西田信彦さんは,仲間づくりで大切なコンセプトは「つなぎ続けること」だと主張された。自らの中学生時代の恩師とのつながりは,今現在の子どもたちとの関わりと結びついている。卒業しても,「どうしている。悩みがあったら,いつでも相談においでや。」というやりとりは,これまでもこれからも続けていきたいと考えていると締めくくられた。

そして,内田龍史教授にこれまでの議論を通じてのご意見が求められ,「貧困状態の児童や生徒を支えることができるのは教員。そうした子どもの兆しを発見し、支えていくことが公教育に期待されることだ。」と主張された上で,仲間づくりや考える力を育成するにあたっては,次の2点が必要と訴えられた。

一つは,差別を理解するためには歴史を知ることが前提として必要であること。二つめは,社会の問題(私たちの問題)として考える力を身につけさせるためには,現状の把握と未来のビジョンが必要であること。そのために,身近な人との関わりからスタートして,差別を見る視点として「人の信頼」を,社会を見る視点として「社会への信頼」へと結び付けることが重要なのではないかと指摘された。

最後に,フロアに感想やご意見をとマイクが向けられ,梅津中の安田さんから,「何で,この生徒がこうなっているのか?」という生徒の背景を知ることが大切で,そのために「足で稼ぐこと」の重要性を若手教員に伝えていることを報告された。また,養正小の菱田さんからは,「第一印象の大切さが大事で,同和問題や仲間との出会いにも,良い出会いをさせたいと考えており,子どもたちに学力をつけることはプロとしてしっかり行わなくてはならないと考えている。」と述べられた。

  パネルディスカッションを締めくくり,分科会の責任者である松井靖至さんから御礼のことばと,来年度の第52回集会への参加をよびかける形で,分科会を閉じた。

  

 

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