トップ | 講演録 | 1分科会 | 2分科会 | 3分科会 | 4分科会 | 5分科会 |
第46回人権交流京都市研究集会
司会:山口寛人・松川洋祐 記録:黒岩寛史 ◆
パネリスト 栗林 雅幸さん(京都市立上鳥羽小学校教諭) 実践報告 「目の前の子が安心して登校できるように 〜中国籍児童への指導と支援〜」 鈴木 あさなさん(京都市立大淀中学校教諭) 実践報告 「多文化共生について考える 〜4年間の取り組みを通して〜」
助言者 孫 美幸(そん みへん)さん(日本学術振興会特別研究員)
◆
討議の柱と方向性
・在日韓国,朝鮮人児童・生徒が民族性を自然に発揮できるクラス・学校とは ・新渡日の児童・生徒に対する教育保障の内容について ・多文化共生を目指す教育の展開について 「外国人教育」とは,社会にある(あった)差別事象を伝える,そのことについて考える学習だけでなく,外国籍児童生徒(外国にルーツを持つ児童生徒)や多様な文化背景をもつ児童生徒を中心に据えた学級,仲間づくりを大切にするものである。
T 栗林 雅幸さん 実践報告内容趣旨 京都市立上鳥羽小学校教諭。2年続いて,受け持ったクラスの中に中国籍の児童がおり,その児童の日本語指導や学級での仲間づくり,居場所づくりのための取り組みについてお話しされました。
1.2人の中国籍児童・保護者の様子や課題 Aさん ・日本で生まれて,1歳半で中国帰国。(山東省)。母方の祖父母が育てる。3歳から中国の幼稚園。 ・2012年10月来日→京都市内の保育園で約半年間過ごす。 ・保護者「日本語を勉強させたい」→上鳥羽小学校入学 (子どもは日本語を覚えるのが早いので,不安はない) ・家では中国語で会話し,なかなか日本語を習得できない。 ・保護者が日本語があまり分からないので,配布物などは職場の留学生に聞いている。 Bさん ・中国に住む朝鮮民族(少数民族)→祖父母世代は中国語話せない。 ・中国では1年生の半年しか行ってない(1年生の内容が終わってない) ⇒3年生の勉強と1・2年生の両方があるので,→2年生に転入したい(市教委に相談) →3年生に転入 ・家での会話は朝鮮語,ゲームやビデオは中国語。
2.学校での対応 ○年度当初の教室の実態 ・日本語がほとんどわからないため,わからない素振りや言動を取ることが多かった →コミュニケーションが取れない ・文化の違いにとまどう ・授業中に手遊びををしたり,友だちにちょっかいを出したりする姿も見られた ・算数は計算問題はすらすら解いていたが,文章題につまずく所がよく見られた ・野菜が嫌いで,給食も勝手に食缶に返しに行っていた→だいぶ食べられるようになった
○まずは日本の学校生活のルールを覚えてもらうために ・ソーシャルスキルカルタ→ソーシャルスキルカルタの拡大版を掲示 日本語になじめるようにした ○日本の学校で学力をつけていく ・意図的に最初に見るようにした。(まなびの先生も)_Aさん ・ICT機器を使った視覚に訴える授業を多用した。 ・視覚的に余分な情報を入れないために,前面掲示は当番表のみ。 ・関わりの上手な児童を隣につける。 ・日本語指導(月・火・水の3・4校時)_Bさん
○放課後日本語教室の取組 Aさん ・動物など,簡単な言葉をタブレットを使って学習 放課後によく覗きに行き,担当の先生と話 ・童話などの音読 A児を励ます
○丁寧な家庭訪問 ・足を運び,本人や保護者の思いや不安を丁寧に聞き,安心感を持ってもらう。
3.児童の変容 ○上鳥羽なかまタイムでの成果 Bさん ・全校の前で堂々と発表→これを自信にがんばるようになった ○日本語操って楽しむ ○周りの児童 ・教室での会話も増え,友達と遊ぶ様子も多く見られるようになった。 ○たくさんの保護者の協力
4.課題 ○放課後日本語教室の継続 Aさん ・2年生の4月 日本語できない,カタカナも難しい←中国語を多用して指導 指導以外で中国語でコミュニケーション ・5月半ばから約4カ月間,中国に帰国(日本語を忘れてなかった) ・冬休みにあえて日本語の宿題を出したら,きちんとしてきた ↓ ・年明けから,長い文章で話せるようになった
○せまい世界での生活から幅広い生活経験を ・帰宅後テレビやゲームをしていることが多い。 ・日本語を覚えることに比例して,母国語を話せなくなっていく。 ○今後の展望 ・多文化共生の部分を外国人教育に入れていく。 ・これから共生するためには,食文化の違いなど,子どもからの発信も大切にし ていかなければならない。 ・日本語指導や母語の指導を含めた体制作りが必要である。
質疑 (Aさん) 過去に新渡日の児童はいたのか。 (栗林) 自分が赴任してからの4年間はいなかった。 (Aさん) 言語は思考を組み立てるツールでもあるので母国の保持は大切ではないのか。 (栗林) あまり意識をしていなかったので,これから取り入れていきたい。 (Aさん) 配布物の対策や工夫は?外国語に訳されてある学校関係の配布物が市教委に用意されているが,それを利用しているのか。 (栗林) 家庭訪問や電話連絡で対応しているが,今後利用していきたい。 (Bさん) これからお互いの文化を交流する場を設けて,子どもたちのよりよい経験につなげていってほしい。 (Cさん) 中国籍の児童が安心して通学できる環境はつくれていると感じる。なかまタイムの発表で中国語を並行して話すことで,また違った取り組みや成果につながったのではないか。 (Dさん) なかまタイムでは,その子の個性を生かすための工夫の余地があり,もったいないと感じた。
U 鈴木 あさなさん 実践報告内容趣旨 京都市立大淀中学校教諭。勤務校で,2年次に在日韓国・朝鮮人への民族差別を行っており,現在受け持つ学年にいる外国籍生徒の実態や昨今の日本の状況を鑑み,その枠組みにとどまらず,広く多文化共生を考えられる機会をつくってこられた。
1.大淀中学校の人権学習 ・1年生…障害をもっている人への差別 2年生…外国人差別 3年生…同和問題学習 ・1年生の「障害者差別」の学習では,成人してから目が不自由になった人の話を聞いた。感想として,自分も人ごとではないという感想をもつことができた。 ・2年生の「外国人差別」の学習では朝鮮舞踊を見て,伝統文化のすばらしさを感じることができた。 ・4年前からの「外国人差別」学習について ≪始めて1〜2年目の学習≫ 『必ずヒーローになってやる 〜サッカー日本代表 李忠成〜』 学習の流れ @番組視聴を通しての問題提起 A在日韓国・朝鮮人の歴史について学ぶ B現状と今後の展望(どのように考え,具体的にどんな行動を起こすのか)
@問題提起 李忠成さんの言葉「韓国選手は自分を韓国人として見ていない。日本で生まれ育った在日人として見ている。仲間意識を感じず,意思疎通も図れない。」 → この声から,子どもに何かを感じ取ってほしい・共感してほしいという思い。 葛藤・悩み「自分は何人なのか」「本当の名前は何なのか」…そんな中,帰化して日本代表を目指す(賛否両論) → なぜ「り ただなり」と名乗ったのか。なぜ帰化もして日本代表でもあるのに「大山」ではないのか? ⇒自分が同じ立場だったら帰化するのか…子どもたちに考えさせた。
インタビューの中で李忠成さんが言った言葉からのエピソード 「私は韓国と日本の2つのふるさとをもっている」 過去に関わった子どもが「私は日本と韓国のハーフ」ということを言ってきた。しかし,それは,マイナスな雰囲気はなく,自然な感じの発言であった。普段から人権学習以外の生活場面でも人権を考える指導をしてきた結果,その子の立場や思い,誇りを周りが考えられるようになった。 A在日韓国・朝鮮人の歴史について学ぶ … 歴史的背景をアニメを通して学んだ。 B現状と今後の課題 NHKのある番組から司会者の言葉 「文化交流が国と国が仲良くするには一番いい。仲良くしていきたい。」 →自分はどう考えて,どう行動するか? 3年目はBを「多文化共生について学ぶ」に変更した。 その理由は,大淀中学校学区で外国人の働き手が増えている状況と南アメリカを母国とする子どもの存在などが挙げられる。 → NHKドキュメントを通して,横浜の小学校の取組からニューカマーの存在を知り,その思いにふれること で多文化共生を考える…。 4年目は…@映画「パッチギ」の視聴 A在日韓国・朝鮮人の歴史について学ぶ B李忠成の番組視聴 C担任の持ち寄り資料による学習 D多文化共生の学びをさらに深化 Dは読み物学習「外国人の子どもたちの朝鮮」…ニューカマーの2世3世の持つ,苦しみや不安・怒りを知る。 2.教員の思い・反省 ・視聴覚教材を取り入れて,少しでも子どもたちに興味・関心をもってもらいたい。 ・人権を無視する言動は許さないという姿勢 ・おかしいことははっきりと表現できる仲間づくりを進める。 「知ることで変わる」知ることが大切 → 正しく知り,正しく学ぶことで外国人に対して身構えることをなくしていく。 質疑 (Aさん) 戦後70年になり,日本の侵略の歴史を教員がしっかりと学ぶ必要がある。 南アメリカの子はどこの国のルーツなのか。日系ブラジル人なのか。とくに社会科の教員としてその背景を知ることは大切なのではないか。 (鈴木) 個人情報のため詳細は控える。言語はスペイン語圏。
V 助言者 孫 美幸(そん みへん)さん ・栗林さんの発表から,母国語と日本語のバランスについて…「ルーツからルートへ」 ・ルートとはどのように育ってきたのかという視点。母国語の保持の程度については,本人がこれからどう生きたいのか,どういう将来を見据えているのかを考えるべき。それらをふまえて母国の文化の発信をしていくべき。 ・鈴木さんの発表から, 「あなたは何人ですか?」という問いかけを導入にしてみては。いつから日本にいたら日本人なのか?舞鶴に住んでいる人は京都人なのか?何人かというアイデンティティーはあいまいで流動的。 ・「李忠成の立場だったら帰化しますか?」という文言は考えるべき。帰化という言葉は,野蛮な人を文明人化させるという意味を含んでおり,もう古いと思う。実際に中国では使わない。 ・「多文化共生」「多文化教育」に疑いをもて。→実際にアメリカでは多文化共生に失敗し,民族の対立が表面化 ・日本政府は人口1億人を保つためには毎年20万人の移民が必要としている。とても近い未来に普通に外国籍の児童が多く在籍している学校が増える。これは学校の急務な課題。 ・外国人登録カードによる混乱 入管法などの大改正による様々な変化,混乱 ・「胸にしみ,腑に落ちる」
孫さんの話に対する質疑・応答 (Aさん) 「知らないことは罪になる」本当にその通りと思った。 自分は子どものときに在日の友だちがたくさんいたので,何の違和感もなく,垣根も全くない。自分の子どもも幼稚園の頃から,在日の子など,さまざまな外国にルーツをもつ友だちと仲良くしてきた。家族ぐるみの付き合いになったほど。親の姿勢が子にも伝わっている部分もあると感じる。親の外国人に対する悪いマイナスイメージが子どもに伝わらないようにするためにも,大人(親)の人権学習はとても大事と思う。 (Bさん) ここにいる人はある意味,第二次世界大戦の生き残り。そんな感覚を子どもにも大事にしたい。 歴史の不都合を摘み取ろうとする動きを止めないと,正しい歴史の継承につながらず,正しい人権学習につながらない。いろんな立場の人から間違いを指摘されないためにも,教員の自己研修・勉強はとても大切。 (Cさん)正しい「多文化共生」学習について,良い教材があれば教えてほしい。 (孫さん)すぐにコレという教材は教えられない。難しい。でも「よし」とされていることは本当にそうなのか,自分たちで考えて判断することが大切ではないか。そのためには,いろんな学習の場に参加するべき。 最後にパネラーから一言ずつ 栗林 … 子どもの母語の保持,学校体制の課題に気づくことができた。 鈴木 … 「みんなは何人か」という問いかけをしてみたい。立場によっていろんなとらえ方があることに気付けた。これからも社会科教員の立場として正しい学びをしてきたい。 孫 … 改めてミックスルーツで生きることについて考える貴重な時間となった。
W アンケートから *映画もう少し長く観たかったです。素晴らしい内容でした。従来の啓発モノではなく,説得力がありました。 *初めての参加でしたが,人権について考えるよい機会となりました。 *今後実践に際し,考えなければならないテーマについて,貴重な資料の案を頂くことができた。 *参加出来て大変良かったと思います。今日学んだことを学校に持って帰り,機会があれば,話せるようにしたいです。 *ありがとうございました。 *さあまた明日から子どもたちとしっかり向き合おう!という新たなパワーをいただけました。たくさんのヒント(?)ありがとうございました。 *とても勉強になりました。ありがとうございました。 *知らないことは差別とおっしゃられて,はっとしました。もっと自分から知っていこうと思いました。ありがとうございました。 *無知は罪,なのですね。何事も知り,五感(心と体)で感じるところからなんだなと思いました。 *第3分科会(人権同和教育),第4分科会(多文化共生教育)の教育実践レポートの取組の実践交流を長年積み重ねてきた中で,分科会として,人権同和・多文化共生を1つの分科会にまとめてほしいです。そして,残った分科会で障害者・女性等の人権問題について,レポートを中心に研究交流できる市民的な分科会をつくって下さい。よろしくお願いします。
|