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第51回人権交流京都市研究集会

  分科会

「共に生きることをめざして」

〜外国につながりのある子どもたちの現状と

セーフティネットのあり方について〜

                         大谷大学2号館2202教室

 

基 調 講 演

 

               金光敏 (コリアNGOセンター)

 

 実 践 報 告

 

前川 美保 (京都市立向島秀蓮小中学校)

 大下 宗幸 (京都市ユースサービス協会)

 

 パネルディスカッション

     コーディネーター   徳永 悠  (京都大学人文科学研究所)

     パネリスト      金光敏   (コリアNGOセンター)

     前川 美保 (京都市立向島秀蓮小中学校)

     大下 宗幸 (京都市ユースサービス協会)

 

分科会責任者 佐々木 祥晴   (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

 

分科会庶務    川端 宏幸    (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

 

 

基調講演

 「今日はこの会にお招き頂くに当たって、どのような方が多いのでしょうか?先生が多いそうなので,先生向けに喋ります。」金さんはこう前置きし,話し始めた。

「私の始まりは、大阪の民族学級が原点。大阪市内は22%ぐらいの設置率で,180校ぐらいある。民族学級の取り組みなどを,制度的に位置づける団体の専従職員だった。」

「自分自身が民族学級で学んできた,その時間が無ければ自分の出自と向き合うこともなかった。」と語られている。

日本の今を取り巻く状況についても「2000年代ぐらいから多国籍化してきた。中国からの帰国者も多く,日本語指導が90年代くらいから始まった。当時は在日コリアン問題が主流であり,中国帰国者の問題はが社会の中で放置されていた現実があった。」と当時を振り返りながら語られている。

ご自身の出自について,「私は生野区の生まれで,七夕の短冊に「早く日本人になりたい」 と書くくらい,自分が朝鮮人であることが嫌だった。貧乏であり,差別が大手を振って町を歩いていた時代。就学にあたっても役所にいかなければならなかった。読み書きできない母親が「うちの息子は学校に通えますか」とかけあわないといけなかった。親を恨んで育った。労働基準法は私の両親を守ってくれなかったし,日雇い労働で,生活の見通しがまったく立たない中で育った。」と話される金さんの話に,会場が静まりかえっていた。

金さんは「被差別の立場にある人間が自尊を取り戻す瞬間は、痛みを伴うもの。その子どもに寄り添わないことはあり得ない。それが無ければ今の自分はない。」「自分の中にあるのは「怒り」。(自身の幼少期を振り返って)あんな苦しい思いをするのは私達朝鮮人だけで良かったはず。同じ孤立感を他の国【中国、ブラジル】にも味あわせるのか」とご自身の小学校時代を回顧しながら,強く語っておられた。

「学校教育が子どもの背景に迫る力が弱くなっているのでは無いか?本当にしんどい子は「しんどい」と言わない!助けて、と言えるのは力がある証拠。(母語が日本語でないため,語彙力が少ない子どもは)自己防衛本能として,「分からへん、忘れた」と取り繕い,なんとかその場をしのごうとする。子どもたちは家庭・学校・社会の中の連続性で生きている。学校で暴れまくっていたとしても、原因が学校にあるわけでは無い。背景を知らなければ、子どもの本当の姿が見えてこない。会場におられる皆さん,子どもの在留資格、確認してますか?永住、家族滞在?その子の家庭言語、聞いていますか?見えていますか?」現場で子どもたちに接する我々が,心に銘じなければならない言葉だろう。

数多くの子どもたちに接してきた金さんは「荒れに理由無きこと無し。そのことに学校教育が向き合うことを放棄したら、その子たちはどこへ行くのか?」と会場に問いかけた。

「ことが深刻化してから初めて対応するのと、援助策を持って未然に防ぐのとでは全く違う。その教育実践こそが同和教育。」同和教育の弱まりが示すものは,すなわち学校が背景に迫る力が弱くなっているということだと言えるのかもしれない。

「「親自身が、何かに傷ついているから」「これ以上傷つきたくないから」ここに、学校が向き合わなければいけない。」そう言って,基調講演を終えられた。

 

 

向島秀蓮小中学校教諭:前川 美保さん

 「現任校は910名中66名が外国ルーツの子どもたち(目に見えて日本語にハンディーがあるのは56名くらい) 外国ルーツはもっと多いのでは?保護者の方は在日コリアン、中国残留邦人の家族、日系人(フィリピン、南米など)、国際結婚、就労・起業、留学生として来日後、日本で就労される方が多いです。」前川さんは,そう前置きして話始められた。

日本語教室は特別の教育課程として,希望者を対象に一週間に一時間程度,放課後に行われている。保護者向けには印刷物の翻訳や各種説明会での翻訳などの業務を行う。あえて、簡単な日本語を使うこともあるが,これは日本語担当者が伝える様子を、他の担任にも見て貰ったり,子どもが親に伝える練習をすることで、将来母語が違っても意思疎通がとれるようにとの目的があるのだそうだ。

新渡日の生徒の課題として,「日本での生活の見通しが立てにくい」「滞在期間そのものが親のビザ次第」などがある。子どもの教育に関心が回らない家庭もあり,副言語環境にある児童生徒への指導ノウハウは発展途上とのことだった。

前川さんは「しゃべれることと、学習参加は別次元」と語る。

母語が日本語でない生徒にとって「分からなければ聞きなさい」は酷なのだ。これらの課題は、大人側の問題では?と前川さんは問いかける。来日は子どもの意志ではないし,生育歴が一般的な日本人と異なるため、来日年齢、来日理由、母国での学習状況、家庭での言語、教育方針、家族の日本語力、主に世話をしているのは誰か、行き来を繰り返す理由は、本人は自分や家族のルーツをどう思っているか、などの聞き取りが重要である,と述べられて講演を終えられた。

 

 

京都市ユースサービス協会・大下 宗幸さん

 

「一緒に学ばせて下さい。」この言葉をパワーポイントで写し,大下さんの講演がスタートした。 京都市ユースサービス協会は,問題、課題のある若者支援ではなく、すべての若者を対象とした支援を展開していて,「ターゲッティングではなくユニバーサル」を基本方針としている。京都の他には札幌、名古屋、横浜など一部都市圏にあるのみだ。

伏見青少年活動センターでは多文化共生をテーマに活動展開しており,外国にルーツを持つ若者のための居場所事業「SWITCH(進学・就労よりも余暇支援に重きを置く)を運営している。知名度が低かった時は,参加者0の時もあったそうだ。

オープンアクセスであり,ユニバーサルな支援だからこそ,既存の支援とつながりにくい若者とつながる事が出来る,と話されていたのが印象的だった。潜在的な排除への気づき, 外国にルーツを持たない若者への発信,多文化共生を謳わないセンターの実現に向けて,と課題が山積していることにも触れながら,講演を終えられた。

 

  

2部 パネルディスカッション

コーディネーター:京都大学人文科学研究所 徳永 悠さん

 

会場からの質問@:「自分が(離婚と再婚を繰り返す生徒の)担任だったとして、どういう切り口で迫っていけるか?」

金さん:在留資格への知識があれば、行動に至るプロセスが見えてくる。そうすれば、当事者へ投げかける言葉も変わってくる。(どうすれば警戒心を取って、心を開いてくれるか)

 

質問A「秀蓮での活動は、子どもたちがどのように変化したのか?」「前川さんの立場の職員は、どれぐらいいるのか?」

前川さん:二の丸から秀蓮になって+、マイナスの変化があった。日本語指導のなかった学校から来た生徒たちが、外国ルーツに肯定的に見てくれている。しかし小中一貫になって,自分のルーツを隠すようになった子達や,外国ルーツを知らない人たちが多数派になってきている。日本語指導担当は15名。27時間勤務が8名。418時間勤務が9名。市の国際交流協会に登録しているボランティアは60名程度。(稼働は20名ほど)

 

B「中高での連絡をするとき、どこまで細かくフォローすべきか?」

大下さん:「細かくと言えば、どこまでも細かく支援している。雑談の中で困りを聞き取りしていく。「本当に困っている子は困っている、と言わない」

 

C「民族学級担当だが、今通っている子達にメッセージを!」「多文化共生について、生徒達に伝えるときに重要なことは?」

金さん「大阪で民族学級参加は、できる限り義務化すべきでは?と考えている。」「先生方が、自分のクラスの子達を連れていく意識を持たないと!」「民族学級で見せる顔と、教室で見せる顔が違う。なるほど、と思ったのは民族学級では子どもを成績で評価しない。違いが出るのは当然。民族学級をつくるのは学校内に保健室をもう一つつくるのと同じ。たんに民族的アイデンティティを取り戻すだけではない」

 

D「小学校で民族教育に関わるには、免許など必要か?」「日本語教室で、大変なことは?」

前川さん「授業中に取り出して教えるには、資格が必要。優しい日本語で、相手の立場にたって教えられること。放課後指導の時は、免許は不要。優しい日本語で話すことになれているので、不自由さは感じない。身振り手振りで100語程度あれば、意思疎通は可能。子どもの困りや、トラブル、進路保証を説明する時には母語で説明することも。母国とバックグラウンドが違うので、そこを伝えるのは苦労する。」

  

E「一番嬉しかったことは?」

大下さん「外国ルーツを持つ若者に、どうやって関わろう?と考えている。そこの部分が大変。色んな子が、ターニングポイントで来館してくれる。節目節目で報告してくれると、とても嬉しい。」

F「外国ルーツの親から、自分の子は日本人として育てる、と言われることも。どこまで親の教育方針に入り込めるのか?」

金さん「子どもの背景に入り込むための要件は,第一に先生のコミュニケーションスキル。子どもが「自分の安心が担保されている」と感じなければ,本当の困りは見えてこない。外国人ルーツが表現するのと、日本語話者が表現するのとは違う。(子どもは嘘をつく、私の子どもは馬鹿だから、など。それは語彙の少なさから来ている。)学校教育はチームプレー。子どもが一番安心して話せるのは誰?クラス担任,とだれが決めたのか?隣クラス、他学年に首を突っ込めない学校は硬直化していく。」

 

G「交通時間にとられて、指導時間が取れていないのでは無いか?」「留学生を活用しては?」

前川さん「京都市でも頭の痛い問題。一回で長時間より、スポーツや音楽と同じで細切れに教えたいのが実情。」

 

 まとめ:洛友中学校教頭 川端 宏幸先生

 

今回のC分科会は、大きな節目であった。似たテーマで被ることもあった・・・。

一つの分科会を形成。金さんの登壇を願う声多数・・・。金さんの取り組みを軸に、「学校はどうなの?」「地域はどうなの?」という視点から、登壇者を決めていった。

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