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第46回人権交流京都市研究集会

  分科会

人権尊重を目指す教育創造

 

                   2号館2201教室   

        

   基 調 講 演

伊藤 悦子 (京都教育大学教育学部教授)

パネルディスカッション

 

コーディネーター  浜矢  全 (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

パネラー    菊池 良輔 (京都市小学校同和教育研究会)

  新渡戸 理恵(京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

                 西田 信彦  (部落解放同盟京都市協議会)

 

    分科会責任者  武内 泰憲   (京都市小学校同和教育研究会)

     分科会庶務      弓削 雅哉   (京都市立中学校教育研究会人権教育部会)

 

 

 

はじめに・・・司会 弓削雅哉さん(中人研)

・挨拶,および討議の進め方についての確認および講演者の紹介

 (伊藤悦子(京都教育大学教育学部教授)の登壇)

伊藤  社会科学の視点に「虫の目」と「鳥の目」という例えがある。「虫の目」とは細部をとらえる現状分析の視点。「鳥の目」とは俯瞰する大まかな視野。今日は「鳥の目」で,これまでの同和教育を見つめ直してみたい。

『教員が問題を発見しないと,課題解決は見込めない。』と考えている。かつての教員は,家庭訪問で同和問題を発見し,その問題解決のために手立てを打ってきた。1950年代,不就学の生徒が,毎朝鴨川に流れてくる古鉄を回収して遅刻していたという。その生徒の担任であった先生は生徒に「毎日,学校に来よう。遅れてきて受けられなかった授業は補習をするから。」と呼びかけて,毎日の登校を実現した。1960年代にようやく学校に登校できはじめた生徒が,非行問題や学力実態の厳しさに直面して,その原因となる部落差別の根深さを知るところとなる。1963年度に「同和教育方針」が出され,教育全分野で,公務員がその主体性と責任において『学力向上』を至上目標とした実践を推進することになる。京都市は他府県に比べても突出する伸びで,同和地区生徒の高等学校進学率を押し上げた。1960年代におこった就職差別事件では,高等学校の教諭が問題を提起して,行政を動かし,教育施策の整備につながっていった。こうした先輩教員の実践を忘れてはいけない。ともすれば,人権教育は「人権問題の学習をすること」と捉えている若者を見受けるが,子どもの自己実現のための教育実践がいかに大切であるかということを考えてほしい。

では,2015年の学力保障の視点から見た課題とは何かと考えると,子どもの「貧困」に集約されるのではないかと考えている。現在問題とされている「相対的貧困」は,年収の中央値224万円の半分である112万円以下の収入で生活している世帯の問題で2009年度で16.0%に達している。

この「経済的貧困」は,「文化的貧困」という側面で見れば,なけなしの余剰金をどのように使うかという問題と関連している。さらに,「社会関係的貧困」の側面では,孤立して地域と交流できなかったり,貧困の状況を関係機関に相談できなかったりする状況があると考えられる。

そこで,「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が2013年6月に制定され,2014年8月に「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定された。その中で,「当面の重点施策」の(1)に「学校をプラットホームとした総合的な子供の貧困対策の展開」が記載されている。その主旨は,学校教育による学力保障・学校を窓口とした福祉関連機関等との連携・地域による学習支援・高等学校等による就学継続のための支援が示されている。

 京都市の貧困問題に目を向けると,HPにも示されている公式統計で,生活保護率は政令指定都市の中で3番目の高さである。要因として,就業者のうちパート労働者の割合が政令指定都市の中で最も高く,特徴として,他の都市に比べると「母子世帯」の割合が高いことがあげられる。被差別部落の実態調査が行われていない中で,2000年の調査を参考に見ても,「経済的貧困」の格差は明らかで,文化資本や社会関係資本が少ないという問題は,2000年前後の実態調査でさまざまに指摘されていた。

 では,「差別の現実に深く学び,生活を高め,未来を保障する教育」という全人同教のスローガンを実現するために,どうするか。という問いに対して,まとめとして6つの視点を示したい。

 @ 足で稼ぐ 靴減らしの同和教育 に立ち返る → 子どもの背景を知る,家庭との連携

部落差別を学ぶ視点として,客観的にデータを示すという視点と,部落差別に学ぶ視点として,主観的にどうしてそうなったのかという要因や背景を知ることをおろそかにしない。

    A 平等と画一化の違いを明らかにした実践を。どのような親の元で生まれても等しく教育を保障することが大切であり,「えこひいき」は厳しい子どもに必要である。

    B 焦点化した指導を徹底する 困難な子どもを中心にした学級経営や学習指導がなされているか。個人カルテを活用し,ケース会議による検討も必要ではないか。

    C 子どもの将来を見通した指導を。現実に負けない自己変革を,子どもにも親にも働きかけることが大切ではないか。

    D 教師自身の自己変革も必要。学校の教育実践の点検を,調査や研究として行うべき。一人親世帯や生活保護世帯の子どもに対する調査は可能であり,必要となる。また,スクール・ソーシャルワーカーを活用するなど,他機関との連携を強化させるべきであり求められる。

    E 青少年活動センターでの中学3年生の学習会や子どもひろばの取組などに見られる他機関との連携はすでに行われており,社会福祉事務所との連絡を密にしてDVなどの虐待や,ネグレクトが疑われる子どもへの対応を視野に取組はすすめられるべき。

 

 (休憩後,パネルディスカッションのコーディネーターから方向性を説明し,討議を開始する。)

 

 

浜 矢  自己紹介を兼ねて,伊藤教授の基調講演を聴いて一番印象に残ったことと,学校の実践や地域での取組を行われている現状の中で,感じておられることは何かを紹介して頂きたい。

新渡戸  中学3年生の担任として,採用2年目を迎えている。以前に他県の私立高校の講師をしていたころに比べて,公立中学校の教員はこんなことまで仕事としているのかと面食らったことを思い出す。ベテランの先生方から「このような実践を積み重ねなければ,厳しい状況に置かれている生徒はどうなるのか。」を問い続けてほしいと学んだ。

菊 池  採用8年目を迎える小学校教諭で,職場は自分より若い世代が8割以上を占める状況にある。伊藤教授の話の中にあった「貧困」について,これまでの子どもや保護者との関わりの中で実態を見つめると,同和地区では文化的な貧困や社会関係的な貧困の状況は明らかで,保護者の生活に余裕がなく,子どもの将来を見通すことがしづらい状況を少しでも補うことができる関わりをもつことが大切だと感じている。

  西 田  私自身が,同和教育を受けて育ってきた世代である。現在は地域で和太鼓の指導を行っている。地区の内外に関わらず,多くの子どもたちに指導しているが,家庭訪問の重要性については,母子家庭である生徒の姿を見ていると痛切に感じることがある。

 浜 矢  続いて,学校現場の方々は「学力保障」と「反差別の集団づくり」の実践として取り組まれていることの紹介と,西田さんについては,仲間づくりの視点で心掛けておられることを紹介してください。

  菊 池  教科書の中身は,確実に定着させようという取組をすすめており,昼休みの帯時間で,スキルアップのためのプリント学習を行っている。また,学校独自の『学力診断テスト』を作成して弱点の補強に努めている。

  新渡戸  朝読書を毎日10分間の取組として続けており,各自で本を用意するが,学級文庫に担任のお薦め本を準備して,読書の習慣と読解力の向上をめざして取り組んでいる。3年生は通塾率が高いが,塾に通えない生徒を対象に放課後の学習会を開いて,補充学習も行っている。集団づくりの取組としては,生徒主導の学年レクリェーションの企画や生徒会行事の自主運営を行わせている。教科指導では,生徒は間違えることやわからないと答えることに対して抵抗があるので,指導者が「いじわる問題で困らせたけど,みんなの理解につながる間違いをしてくれて有り難う。」と返すことで周囲の嘲笑はなくなった。そのようなことを心掛けている。

 西 田  同和教育の施策を受けていた時代に,先生から「君は地区内の仲間にも恵まれているが,他の仲間にも信頼されている。君の行動力に期待をかけている。」と言われて自信がついた。現在の和太鼓指導では,あえて答えは1つではない質問を投げかけるようにしている。子どもたちの考えの多様性を認めて,それが尊重される雰囲気をつくり,集団としてのまとまりができると考えて指導を続けている。

 浜 矢  この後は,伊藤教授の話にもあった『家庭訪問』をキーワードにして話をすすめていきたいと思います。家庭訪問にまつわるエピソードなどを紹介してください。

 新渡戸  長く電話で話すなら,家庭訪問をしなさい。と先輩教員から教わっている。新規採用のときには面と向かうコミュニケーションに不慣れで,相手を怒らせてしまったらどうしよう等を考えていた。2年目になって余裕が生まれたからか,顔だけをつき合わす家庭訪問から家庭の事情を感じ取ることができる家庭訪問に変わってきた。

  菊 池  担任の立場から離れて見えてくるものがあり,顔を知っているから気さくに話しかけることができる雰囲気づくりがとても大切で,その雰囲気がある家庭とはいろんな相談もできる。しかし,その雰囲気が作れていない家庭からは,担任をとばして管理職に直接の連絡や相談が寄せられることが増えてきている。

  西 田  指導を続けていくための信頼関係や信用を築くために,家庭訪問は欠かせないと思う。私は教員ではないので家庭訪問はできないが,和太鼓の教え子たちの運動会には,必ず顔を出すようにしている。学校での子どもの活動を保護者とともに見ることで,触れ合うこともできるし,コミュニケーションは高まる。逆に先生方には,和太鼓の活動をしている子どもたちの姿を見に来てほしいと願っている。

(フロアからも『家庭訪問』にまつわるエピソードなど発言をお願いしたいとの依頼。)

  香川県から来場者(教員)   10種類の家庭訪問があると職場では伝えている。事情説明や謝罪だけに終わるものや,ほめたり喜び合ったりできるものなど多様であるが,そのような家庭訪問も実践するから見えてくるものであるので,是非若手の先生方にはOJT(オンザジョブトレーニング)と捉えて,実践を積み重ねてほしい。

  養正小 岸田さん    週1回の定例の家庭訪問などを約束して,その都度,内容を変えて家庭訪問をしたことがある。子どもの活躍場面の写真を手紙に添えて持参したこともある。現在,地元のサッカーチームの指導者として活動しているが,地元の学校の先生方に対して子どもの活動の様子を知らせてほしいと要求している。もちろん,サッカーでの活動を見に来てももらいたい。学校と地域の垣根を取り払う意識は,地域からも発信していきたい。

京北第一小学校の先生      目的意識をもって行く家庭訪問が大切だと考えている。学年内の情報交換で,子どもたちを取り巻く環境を共通理解することも大切である。

佐賀県からの来場者(教員)   研修が多い新規採用の先生方ではあるが,知識は増えているが,説得力はどうかと感じる場面がある。家庭の保護者の中には精神疾患がある方も増えており,保護者の方々の思いや気持ちを理解するためにも家庭訪問は必要である。先程の討議中に,若手の先生が,授業では間違ってもいい環境をつくっておられることが素晴らしいと感じている。家庭訪問では教師としての立場も大切だが,人間としての立場で臨むことが,もっと大切にされなければならないと考えている。感性を磨くためにも家庭訪問は必要である。

阿部さん(改進支部)   先生方に,義理や厄介で家庭訪問に来ているのかと尋ねたことがある。本当に子どものことを考えているのかと問いたい。Aくんは,真面目で大人しい子であったが,いたずらをして教員が家庭訪問して報告した。そのAくんの家庭では,「言い聞かせておくわ。」と告げて,その後Aくんは家で殴られて居場所がなくなったことがあった。そんな状況にも陥ってしまう家庭があることを理解してほしい。子育てや子どもの教育について相談できるのは教員でしかない。その相談ができる教員であってほしい。

香川県からの来場者(教員)    生徒会役員でリーダーとして活躍する責任感の強い生徒が,テスト前での学習について悩んでいるなどの場面に出くわすことがある。家庭訪問で初めて見えてくる生徒の姿があるので,そのあたりも理解してもらいたい。

澤田さん(藤森中)       教師は,手がかかる子だからこそ,好きであることが前提条件になるのではないか。そうした手がかかる子と「本気」で関わることが大切で教員としての力量を高めることにもつながるのではないか。

 

 (責任者の武内泰憲さん(小同研)から挨拶。司会からの事務連絡(アンケートへの協力の呼びかけ)を行った後,終了。)

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