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第46回人権交流京都市研究集会

第2分科会

 共生社会と人権

  ヘイトクライム を乗り越えて

 尋源館101教室

 

                 

〜多文化共生社会実現へ〜

 

 第1部 報告 (13時30分〜15時)

     報告1  上瀧浩子さん(弁護士)

    「反ヘイトスピーチ裁判に向けて」

  報告2  郭辰雄さん(コリアNGOセンター代表理事)

            「ヘイトスピーチに対する規制の実現を」

 

 第2部 パネルディスカッション(15時10分〜16時10分)

   パネラー   上瀧浩子さん

          郭辰雄さん

          朴実さん(京都・東九条CANフォーラム代表)

 

 

分科会責任者     朴実

 司会進行       金周萬(京都・東九条CANフォーラム事務局長)

 記録         宋基和(京都・東九条CANフォーラム)

 庶務         小林栄一(京都・東九条CANフォーラム)

 

 ◆

 

 

 

  京研集会第2分科会報告

今回の第2分科会は、「ヘイトクライムを乗り越えて」〜多文化共生社会実現へ〜をサブテーマにして、第1部では「在日特権を許さない会(在特会)」・桜井誠(本名高田誠)・「まとめサイト保守速報」への民事裁判提訴をしている李信恵さんを支援する上瀧浩子弁護士、ヘイトスピーチに対するカウンター活動を続けるコリアNGOセンター代表理事郭辰雄さんの報告を受けた。冒頭第2分科会を主管する京都・東九条CANフォーラム代表朴実さんより、CANフォーラムが目指してきた「まちづくり」の内容や東九条に「在特会」が登場してからの子供たちへの影響、取り分け東九条の学校現場で在日の子供が「朝鮮帰れ」と言われた事を指摘され、自分たち大人が多文化を受け入れる教育作りに努力していかねばならないと提起して分科会が開始された。

 

■上瀧浩子さんによる李信恵さん裁判の報告

最初の報告者上瀧浩子さんは、集会冊子のレジュメと当日配布の「鶴橋安寧」(発行:李信恵さんの裁判を支える会)を基に、ヘイトスピーチの本質とマィノリティに与える影響等を報告した。現在李信恵さんは、「在特会」と桜井誠へ550万円の損害賠償請求と「在特会」ホームページへの謝罪文の掲載、「保守速報」へは2200万円の損害賠償請求を提訴している。しかし彼女が一番望むのは、ヘイトスピーチがこの世から無くなって欲しいという事だと上瀧さんは述べた。

 上瀧さんは、「在特会」による朝鮮初級学校襲撃事件裁判でヘイトスピーチの項を担当した際に、ヘイトスピーチとは何かの定義付けに一番本質を表していると思われるマリ・J・マツダを援用している。その定義によれば、@ヘイトスピーチとは人種的な劣等性を主張するメッセージとなっていることAその内容が迫害的で敵意を有し相手を貶めるものであることB一番中核になると思われるのは歴史的に抑圧されたグループへのメッセージであることとなっている。先刻朴実さんの報告で「朝鮮帰れ」との発言が出されたが、ヘイトスピーチは憲法14条の平等権に真っ向から対決するものであり、公に表明されることで社会への影響力が非常に大きく、個人にとっての害悪でもあると語った。李信恵さんは、「もう怖い、私が殺される」と発言している。また朝鮮学校の子ども達も、何時誰が襲ってくるかわからない恐怖感を持たされてしまっている。それは社会に対する安心感の喪失とも言えると指摘し、その事によりヘイトスピーチはマィノリティに沈黙を強いる効果があると述べた。

 上瀧さんは次に、ヘイトスピーチが差別社会を再生産するメッセージを流布している事実を指摘した。「在特会」の出現やネットでのヘイトスピーチの無制限の垂れ流しが容認されることによって、人種差別は公然と行ってもよいものだという意識が社会の中に生まれてくることを指摘した。また「憎悪のピラミッド」を示して、広く薄く存在する偏見が憎悪に結晶していく過程を述べた。「在特会」の朝鮮学校襲撃裁判での彼らの証言からも、「偏見⇒偏見による行為⇒暴力行為」の過程が看取出来ると指摘した。

 国際人権法においてヘイトスピーチを抑制することは、豊かな表現の自由を保障することと捉えられている。マイノリティーの言論が可視化され、対等な価値を持った社会を作るためにもヘイトスピーチは規制されねばならないと上瀧さんは提案された。また人種差別撤廃委員会勧告にもあるように、ヘイトスピーチの刑事・民事面での規制と同時に教育的アプローチの必要性もあると述べた。

 ヘイトスピーチは特定の名前をあげずに行うため、刑事・民事規制にも掛らない。だからこそ李信恵さんは、「嘘つき」「ピンクのババア」と名指しでヘイトスピーチを浴びている自分が被害の重大性を訴えたいと考えている。李さんは個人としてまた在日朝鮮人としての精神的損害賠償を求めているが、同時に「ピンクのババア」「ブス」と発せられる女性差別、複合差別としてもあると言える。その意味で李信恵さんは、個人名を上げてヘイトスピーチ攻撃を受けたが故に民事訴訟の当事者適格性があったと言える。だからこそ犠牲的精神で「在特会」等三者を訴えていると述べ、この裁判への支援を求めて上瀧さんの報告が終了した。

 

■郭辰雄さんのヘイトスピーチを規制させる活動報告

続く報告者として、コリアNGOセンター代表理事郭辰雄さんが登壇した。郭さんは冒頭ヘイトスピーチの訳語が「憎悪表現」とするメディアが多いが、自分たちは「差別憎悪の扇動表現」としている、すなわち「明確な差別意識を持って人種差別を他者に扇動し働きかける行為と考えていると述べられた。ヘイトスピーチは明らかに国際人権法の犯罪行為に当たり、国連加盟国200国の約半数で何らかの規制をする法規やチエックが存在している。「ヘイトスピーチは表現の自由なので規制は難しい」という言い方などは国際社会が認めないし、このような犯罪行為を野放しにするわけにいかないというのが我々の立場であると郭さんは述べられた。

ヘイトスピーチは2013年には年間360回程度行われているが、2014年にも過去の歴史を否定しようとする慰安婦展示会や講演会等を入れてほぼ同数と思われ、それに対してカウンターが対峙する状況も続いていると報告された。特定の人に対する攻撃ではないので、被害者がいないように思われがちだが、その場にいる在日全員が被害者であり脅迫を受けている。京都朝鮮学校の映像を見てもらえばわかるように、ヘイトスピーチは子供に恐怖心や緊張感を与えている。そして自分たちの存在や尊厳が否定されているにも拘らず、警察は自分たちを守ってくれないと思わせる無力感・絶望感は非常に深刻なものがあると郭さんは述べられた。

 

 郭さんは、「ヘイトスピーチは表現の自由だから規制出来ない」との視点を批判した。在日に対して「たたき出すぞ」という主張が「表現の自由」と言われ警察に守られているが、原発や辺野古の自分たちの生活を守る声こそ「表現の自由」として保証されるべきと述べた。また日本社会の差別に対する緊張感のなさを指弾した。先日産経新聞のコラムに安倍晋三首相のアドバイザーと見られる曽野綾子さんが南アフリカのアパルトヘイトを容認する表現をし、南アフリカ大使の抗議を受けている。これらは差別、裏を返せば人権に対する緊張感の弱さがあると思われる。またカウンターに対して投げられる「どっちもどっち」論も同様である。ヘイトスピーチを規制するには街中での行動を止めるだけではなく、その「在特会」的なものをどう日本社会から根絶していくのかまで考える必要がある。何故なら現在の日本社会や政治の中に「在特会」的なものが浸透しているからだと述べた。「在特会」が主張する在日の特権とは何か。彼らは在留資格や年金・生活保護・通名などを挙げているが、それら全てが戦前の植民地支配という歴史を有しているにも関わらず彼らはそれらが特権だと主張している。昨年10月橋下大阪市長が桜井誠会長と罵詈雑言の浴びせあいをしたが、「ヘイトスピーチは大阪では許さん」としつつも特別永住資格の検討は維新の党の立場からやりたいと、あたかも在特会の主張を受け入れたかのような表明をしている。郭さんは政策レベルでの「在特会」的なものと、今後地方自自体や地域社会がどう立ち向かっていくのかが問われていると提起された。

 現在カウンター活動は、「在特会」をはるかに上回る数で対峙する多様な活動を行っているが、街頭・司法・国際社会・メディアも何らかのヘイトスピーチ規制が必要と言いだしている。与党の自民党・公明党の中にもヘイトスピーチ規制考えるプロジェクトが立ち上がっている。またヘイトスピーチ規制に足場を置きながら差別撤廃基本法制定を目指す議員連絡会へもNGOとして参加してきている。ヘイトスピーチ対策を求める意見書が、23地方議会(本年1月段階)で挙げられている。ヘイトスピーチ規制のコンセンサスは徐々に広がっているが、それをどういう形にするかが難しいと郭さんは述べた。また地方議会選に「在特会」関係者が立候補するなど、市民社会のルールの中で彼らの影響力を発揮しようという動きも出てきていると指摘した。

 現在コリアNGOセンターは、大阪市に「ヘイトスピーチを許さない都市宣言」のような公的な文書での姿勢表明を要望している。また自治体の管理施設や公園等の使用制限を求めている。またヘイトスピーチに関連する第三者機関には必ず在日コリアンを参画させるように要望している。何の法体系もない中で一からやっていく事になるが、今後もカウンター活動・地域社会・地方自治体への働きかけ等様々な次元での取り組みを有機的に繋げていきたいと提起し郭さんの報告が終わった。

 

 

■第2部は質疑応答と会場からの発言  

第2部は、分科会参加者からの質問にパネラーが回答することから開始された。質問には「在特会」が成長してきた背景とは何か、ヘイトスピーチ規制法規の実現性はあるか、学校現場でヘイトスピーチ問題を学ぶ時に配慮すべき内容は何か、等々鋭い質問が出され各パネラーからの回答がなされた。その後分科会参加者からの発言が行われた。冒頭京都において「在特会」等のヘイトスピーチへのカウンター活動を続ける増野徹さんの報告がなされた。その中で増野さんは東京や大阪の状況も報告しつつ、2013年より強まるヘイトスピーチ街宣に対して圧倒的なカウンター活動を継続していると述べた。続いて京都市国際化推進室阿嘉課長が会場内から発言をした。阿嘉さんは昨年作成された「京都市国際化推進プラン」改訂版を参加者に配布して説明を行った。その中で今回の改定版では「多文化共生のまちづくり」の項目でヘイトスピーチを許さない姿勢を明確にして、関係機関と連携した対応・市民啓発・職員研修等を進めて行く方針であることが報告された。同時に昨年12月に「ヘイトスピーチ(憎悪表現)被害に対する意見書」が京都市会で採択され、国会や政府へ提出されたことが報告された。また京都市のまちづくりは昭和53年に行われた世界文化自由都市宣言に基づいているが、その基本的考えからしてあらゆる差別を許さない取り組みを他の自治体や関係団体と協働して進めていきたいと表明された。最後に「京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会」(仮称)の報告が角替豊さん(前京都府議)からなされた。ヘイトスピーチが伸長してきた背景には、朝鮮高校無償化問題や従軍慰安婦問題、外国人地方参政権問題等に反対する勢力があることを角替さんは指摘し、ヘイトスピーチとの戦いとはこうした日本社会の土壌との戦いでもあると表明された。そのうえで角替さんは「求める会」(仮称)の呼びかけ文を読み上げ、第1に国会や政府にヘイトスピーチ規制法規の実現に向け働きかけること、第2に住民の生命や自由を守るように地方議会へ働きかけて責務を果たさせること、第3に市民の人権感覚をはぐくみ民主主義を活性化させたいと提起されその報告を終えた。

 以上各パネラー報告と会場内の質疑や発言を受け、会場全体でヘイトスピーチを許さず規制の推進を求める事を確認して第2分科会は終了した。

 

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