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第36回部落解放研究京都市集会

  第3分科会

新たなまちづくりの創造

「部落のまちづくり」 今、何が必要か?

                          みやこめっせ特別展示場A

 

 

  司  会     長谷川良知 (部落解放同盟京都市協議会)

  問題提起     山本 尚友 (財団法人 世界人権問題研究センター客員研究員)

  パネリスト    柳生 雅巳 (NPO人権ネットワーク・ウェーブ21理事長)

            菱田不ニ三 (NPO崇仁まちづくりの会副理事長、

                          崇仁まちづくり推進委員会事務局次長)

            吉田良比呂 (京都市文化市民局人権文化推進課長)

  コーディネーター  山田 康夫 (部落解放同盟京都市協議会)

  記  録        澤田 忠明 (京都市職員部落問題研究会)

 

  *参加者     131名 

 

■分科会開催趣旨

 大きく変化をとげたといわれる「部落の姿」は、今日どのようになっているのか。人口流出が高齢化と貧困化に拍車をかけ、地域コミュニティーの弱体化、 差別の本質に関わる教育や就労等に様々の深刻な問題をかかえている。これらの部落の実態と現状を抜きに新しいまちづくりを創造することはできない。このことを踏まえ、人づくりに向けたまちづくりとして新しいまちづくりの創造に向け、何が必要で、何を実行していかなければならないのか、の認識をを参加者全員で深めていく。

 

■問題提起

「平成12年の京都市実態調査から学ぶもの」               山本 尚友

〇実態調査の捉えかた:実態調査は数値部分だけの公表であるが、その結果は部落問題が再 生したかのような非常に厳しいものが現れている。

〇回答率:回答率の悪化(75.2%)は、隣保館が地域を把握しきれていないことを示す。

〇人口の推移:特措法の翌年、70年を境に減少。最終段階の91年から00年に極端な減少。

〇急激な高齢化:高齢者人口比率の増加と幼少年の減少、若年層の世帯全体での流出。91年 からわずか9年間で、約10ポイントの高齢者人口比率の増加。

〇同和事業の成果は、就労、収入の状況をみてみると、約30年間に亘って、短期・集中的に 実施された同和事業は成功したのか。不安定就労者の割合、高校進学率等の外形的にみる と顕著な事業効果をあげたが、2000年調査では低収入層が中核を占める「2こぶらくだ型 のグラフ」になる。

〇児童・生徒の学力の悪化:平成以降、学力低下の深刻化、「2こぶらくだ型」の学校出現。

〇同和事業による地区実態の悪化:わずか9年間で4,000人減少という大きな問題性。

〇同和事業を通して起こった部落の極端な貧困化現象

 @大規模な同和事業の実施がこの変化をもたらした。

 A 同和事業の成果(を享受した人)が部落に残らない。

 B 部落問題を解決する主体としての部落の人の活動は。

〇まちづくりの課題と展望 

 ・改良住宅の建設方式を大幅に見直すこと。各地域に1/3〜半数の1戸建住宅の建設を。

 ・今後のまちづくりのため、徹底した調査・検討による必要な施策の実施を。

 ・絶対に必要なものは、まちづくりの主体としての人である。自分自身の運命を切り開こ  うとする部落民の存在なくして部落のまちづくりはありえない。

 ・若い人が戻れる条件があるのか、戻ってくるのかの具体の議論を。

〇自分自身の運命を切り開く部落民が一人でもいれば、それは次の運命が絶対に切り開かれ る。それを皆でつくっていく、そのことが第一歩でないとうまくいかない。

 

質問 池田さん(フロアー、崇仁まちづくり推進委員会)

Q 人が戻ってくるための方法、その具体的なアイデアがあれば教えてもらいたい。

A 20年前頃は改良住宅の空き部屋の問題であったが現実化していない。当時、私が考えた のは住民の1/3〜半分を1戸建住宅の住民にすること。今なら現実的な提案。部落に戻 ることは、ある意味でリスクを引き受けることになるが、部落解放を担うという約束で住 む、この場合は部落解放を担うという人であれば部落民でなくともよいと思う。

 

■パネルディスカッション

〇コーディネーター・山田康夫さん (部落解放同盟京都市協議会)

 地元での活動のPRを含み自己紹介をお願いします。

 

〇柳生雅巳さん (NPO人権ネットワーク・ウェーブ21理事長)

 85年立ち上げの改進地区史研究会が母体。この頃になると同和施策の必要性の意識が薄れ、施策を受ければよいという風潮が現れはじめた。また地域実態も随分変わってきた。こうした危機感から地域の歴史を残そうと運動をはじめた。00年にNPO法人設立、01年に府の認証を得た。人口の流出が部落に与える影響をシンポジウムで検討。そこで、みえてきた問題点を踏まえ、今後どうしていくのかを模索している。

 

〇菱田不ニ三さん (NPO崇仁まちづくりの会副理事長、崇仁まちづくり推進委員会事務局 次長)

崇仁まちづくり推進委員会の成立過程がポイントである。10年前、同盟、全解連、自治連、反対同盟の4団体が一緒になり、まちづくり推進委員会をつくる。山本先生から、崇仁文化遺産を守る会で同テーブルにつこうとの提案を得てできた。次に祭りの復興(船鉾の再興等)で知恵を出し合い、大人・子どもの協働により成し遂げた。

 91年の市報告書は崇仁地区を除きほぼ完了とするが、当時の崇仁の進捗率は48%。また、連続放火事件も発生し、住民は運動・仕事をしつつ防火パトロールもという状況のなか、共感的な条件も整い崇仁まちづくり推進委員会ができた。事務局構成は各団体の書記長、私は自治連から参加、この3人で協力して進めてきたまちづくりで、合言葉は「まちづくりはひとづくり」、これに尽きる。

 

〇吉田良比呂さん (京都市文化市民局人権文化推進課長)

実態調査の報告書は、まだ内容の協議中である。私の担当業務は、市全体の人権文化の連絡調整業務をしている。ハード・ソフトの両面から協議ができればと思い参加している。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

 山本さんからの問題提起を受けて、それぞれの立場で考えていることなどをお聞きしたい。

 

〇柳生雅巳さん

 まちづくりを考えるに至った契機を説明したい。75年当時は住宅要求と就労保障であった。85年頃になると改良住宅の入居により、支部組織の基本コミュニティー、地域住民組織も解体していく。また80年頃から雇用促進により生活の目途のついた若年層を中心に流出した。

 人口流出問題で整理したことは、@属地属人方式のため人が戻るのが非常に困難。A雇用促進で安定収入層が出る。B応能応益家賃によるデメリットからマンション購入。Cやはり部落は差別される土地であること。昨年、山本先生から4点だけかとの指摘があり考え方を整理した。「自分のまち、ふるさとを、どういうものを、つくろうと目指してきたのか」に戻らないといけない。特に、京都で起こった結婚差別事件を思うと。ふるさとにどういう思いや意識をもって生活をしてきたのか、(詩人丸山さんの「ふるさと」引用)愛着と誇りある部落をどうつくっていくのか。

 様々な方と話したいことは、@貧困から解放されること。A安心して生活できるまち。社会福祉が切られている現状から、そこに住むことで安心できるまちが必要。B差別と対峙する住民集団づくり。こうした問題を昨年のシンポジウムで提言したが、今の情勢のなか流れがまだできていない。いろいろご意見を伺いたい。

 

〇菱田不ニ三さん

実態調査に対するアレルギーの強さが低回答率の原因。流入はない。流出は崇仁では雇用対策が少ないので公務員世帯が出る比率は非常に少ない。過密等もできていない。老朽不良住宅の買収で、仕方なく周辺の市営住宅に転出している。

 同和事業だが、市は役員対策事業になっていたのでは。反面教師として、崇仁まちづくり推進委員会をパートナーシップでやってきた。ソフト面から始めて、地域の子どもたちは、どんなふうになっていくのかを考えることで地域の皆が手をつないできた。大人が子どもに汗をかく姿をみせるとことが大事である。部落から出ることは否定的なことではなく、祭りのときには必ず帰ってくるという子どもをつくっていきたい。

【崇仁まちづくり委員会の取組】

(例)ビオトープの取組:自分らで作らないと値打ちがないと考え、大人、子ども、行政の有  志で、450日かけて池や田んぼをつくった。疑問もでたが、取組が進むことにより子ど  もの顔・意識が変わっていくのをみて理解された。

(例)中学校の統合:19学区の小学校区が一つの中学になるという大変な取組、崇仁の池田さ  んが建設部会長をし、統合の仕事等で社会的信用を高めている。差別発言もあったが日  本一人権意識の高い中学をつくろうと、先生と地元が一緒に活動を進めた。

(例)就職の機会均等の保障:子どもがどのような仕事に就くかが大事、なにも市へ入ること  ではない。就労問題の解決なくして部落問題の解決はなく、その前段が教育、その前段  が住宅対策。まちづくりを進めるにはソフト面から、子どもを中心に据えれば一番やり  やすい。こういうまちづくりを京都市全体で進めたい。

 

〇 コーディネーター・山田康夫さん

 こうしたことを受けて、吉田さんいかがですか。

 

〇吉田良比呂さん

山本先生の問題提起の感想等を述べたい。実態調査からは、若年層を中心に安定就労層の大量の転出、少子高齢化の急速な進行、不安定就労等、指摘どおりである。

 この課題に市はどう取り組んでいくのか。02年1月、いわゆる緑本で、地域のコミュニティーの機能低下を解決していくため、一般施策のなかで自立に向けた住民の主体的取組への支援という観点から、多様な世代が快適、安心して住み続けられるまちの実現を目指して取り組むこと方針としている。

【具体的な取組】

  多様化する地域の保育事情に対する事業展開と保護者活動の活性化。周辺入所・交流の  推進。学習センターの地域教育センターとしての活用。中小企業支援センターによる経  営・金融両面の総合的支援。隣保館のコミュニティセンターへの移行。保健・医療・福  祉ネットワークの構築。改良住宅の一般公募など。地域活力が生きる自立的なまちの形  成が重要であり、 周辺地域と調和のとれた住環境整備等の取組を実施していく。

 個人的見解だが、各局個々の対応はあるが、庁内連携と事業へのリンク、全体的な改善への仕組みが不十分である。これがないと住民の活動のしにくさにつながっていく。

 今後のまちづくりは地域福祉のネットワークが重要。高齢者問題をみても、医療、保健、生活、住宅等の問題があり、それをコーディネートし、責任ある行政へつなぐという地域ネットワークの構築が住み続けられるまちづくりにつながる。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

 山本先生の問題提起にあった大事な点だが、人口の減少が今の部落の現状を生み出すとともに、そのことが新たに様々な問題を派生させている。このあたりの認識についてどうですか。吉田さんいかがですか。

 

〇吉田良比呂さん

 地域コミュニティーの機能低下を考えたとき、まちづくりの中心となる安定層が流出している、この人口減少が今の部落の現状を誘引している大きな原因と思う。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

そのあたりを基本にしながら部落の現状を考えていかねばならないと思うが。

 

〇菱田不ニ三さん

安定層への疑問がある。91年の調査時点の500万〜600万円の層は、ほぼ市職員で10年後の定年退職が見え、町内に残っても年金生活になる。200万〜300万層も雇用促進面での市職員の減少といえる。これらフリーター等を職種の広がりとするのはおかしいし、決して就労面でいいことではない。もう1点、奨学金が同和地区にとっては命綱である。同和問題を解決するための差別に負けない子どもをつくるため継続してもらいたい。

 

〇池田さん(フロアー、崇仁まちづくり推進委員会)

吉田さん応えられないですか。個人的にでも。

 

〇吉田良比呂さん

 奨学金は02年から5年間で終わることになっている。一般施策として日本育英会制度の活用等。奨学金に係る意見はいえないが、ご意見を聞きながら内部でも検討したい。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

 現状を変えるには「人づくり」が一番のキーワードになってくる。皆さんに考えてもらいたいが、@人が4割も減少したまちは本当にまちとして機能しているのか。部落の高齢者率の問題、お年寄りがお年寄りを支えている姿からまちの共同体や地域コミュニティーの再生が可能なのかどうか。A若年層等の人を引き戻す仕組みづくりを模索しなければならない。特に「人づくり」「コミュニティーの再生」で思いを出していただきたい。

 

〇柳生雅巳さん

 基本的に部落を貧困者と高齢者だけのまちにしてはいけないと考える。現在の改良事業は低所得者への住宅提供であり、経済力がつけば出るという応能応益家賃がそのシステムに組み込まれている。個人的には、単純な改良住宅の建替えには反対であり、そこに部落の人が住むというあり方、多様な住宅供給等を合わせて考えていかなければならない。

 もう一つは、コミュニティーが成り立たないなかで教育や文化が考えられるのか。考えなければならないことは、部落から出た人が部落を忌避する等の問題があること。今部落の中で1戸建住宅を販売をしたとき、経済的リスクを冒して部落に住もうという人がどれだけ出てくるのか、ということ。改進の場合は住み替えが終わり、ここから派生してくる問題にどう対処するのか。私自身、まだ結論がでていないが、こういう問題を含んで考えていかなければならないと思う。

 

〇菱田不ニ三さん

 崇仁では住宅建設と建替えを同時にやっており、定期借地権付住宅に取り組んでいる。市のいう土地代計算より安くできると考えている。改進の場合なら、更新住宅ではお年寄りのニーズにあった年金で払える住宅を、一方若い人は低家賃の定借付住宅の購入で町内へ戻るというように魅力のあるまちをつくっていくことが大事である。コミュニティー面では、崇仁ではデイサービス等を揃えた合築施設が進んでいる。余った土地利用では、駅前に運転免許更新センターの分室をつくろうという案を京都府と話をしている。

 

〇 コーディネーター・山田康夫さん

 フロアーの方どうぞ

 

〇外川さん (フロアー、NPO人権ネットワーク・ウェーブ21副理事長)

NPOウェーブ21のシンポジウムでコーディネーターをやっていた経験から、感じたことを話したい。一つには、当事者としての部落住民とどう向き合っていくのかということ。自分はどう向き合っていくのかという2点を話したい。

 1点目は、90年代、改進では地域のPTA等の支えをもって大学進学率は大きく向上した。しかし大学に進学すればいいのではなく、その後どんなふうに生きていくのかが大事である。同和教育はそこまで見通して取り組まないと、いままでのように時代一つ遅れになってしまうのではないか。もう1点は、各地区それぞれの実態に応じてやればよいといわれてきたが、それでいいのかと強く思う。最近、教育のキョウが教えるでなく競うになっている。学校間や地区が独自にやるのは大事だが、根本的部分の部落問題の解決は、同和教育の目的は何だったのかを確認し合い、それぞれの独自性で展開しないといけない。

 同和教育といえば児童生徒の学力向上を至上目標とするという方針を立ててきたわけである。02年以降、同和教育の普遍化はしてきたが同和教育そのものの充実はどうか、同和教育はそもそも何であったのかをきちっと考えていかなければならない。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

 今のフロアーからの意見に対して、何かパネリストの方からありましたら。

 

〇池田さん(フロアー)

 今の意見で、教育委員会の人で答えてくれる方はおられないか。

 

〇荒木さん (フロアー)

今、教育の問題が一番大事であるという意味から出たと思うが、まだやはり同和地区の子どもたちが抱えている課題(学力の問題も含んで)があり、今後も同和教育として取り組むことは変わっていない。64年につくった同和教育方針、学力向上を至上目標とする取組は今後も続けていくと、私は思っている。それから、子どもたちを育てていくうえで、大人がどれだけ汗をかくかということ、これが本当に大事だと思っている。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

 フロアーからの回答ありがとうございます。時間がないので短くお願いできますか。

 

〇(フロアー)

京都市の教員として今ある。部落で生まれたことがリスクではなく、ここに自分のアイデンティティーはある。部落に生まれたことを誇りに私自身は50年生きてきた。そういう教育者として訴えたいことは、人に信頼・信用されることをして生きてきたということと、自分が何をしていくのかというときに、地域の子どもたちに、また自分の職場で、信用される立場でやっていかねばと思う。最後に奨学資金、私が今あるのも奨学資金の結果であり、打ち切ることがないようお願いします。また、後輩を育てていきたいと思います。

 

〇コーディネーター・山田康夫さん

 最後にパネリストやフロアーの意見、山本先生の問題提起を含めて、サブタイトルにある「新たなまちづくりの創造〜部落のまちづくりに今何が必要なのか」、キーワードを出していただければと思う。

 

〇吉田さん

 崇仁まちづくり推進委の取組やウェーブ21の地域での活動がある。「地域での活動」と行政がどう連携するのか、新しい創造ではそのネットワークや連携が大事と思っている。

 

〇菱田不ニ三さん

 「人づくり」に尽きる。もう一つ、もしコミセンを地元委託するなら地域の子にそこで仕事をして欲しい。若い子が地元に戻って一生働ける、そんな職員とシステムが必要。コミセン委託も人づくりの視点を忘れずに取り組んでいただきたい。

 

〇 柳生雅巳さん

一つには、改進地区なら改良住宅が8割で貧困者と高齢者を集めているということ、経済力がつけば出ていく。これは構造的なものである。それを変えるために、まちづくりの根本的なものを考えていかなければならない。二つ目には、それを担える人づくり。部落であることを誇りながら、ふるさとをつくる決意の人材を結集して、どこまで闘えるかということがキーポイントである。

 

〇山本尚友さん

 一つはこれからのまちづくりを考えるうえでは解放運動の再生が避けて通れない。この間の同和事業には大きな欠点がある。それは特別措置法を前提としたが、部落差別をなくそうと思えば今後50年、100年と取組を継続せざるを得ないということがよく分かった。

 もう一つは同和事業の制度化、つまり長期的な同和事業を安定的に執行できる体制をつくっていくのが大きな課題である。そういう長期的な事業・体制、根底で支える運動という両輪をつくっていくのが運動、行政、そして市民の課題になっていくのではないか。

 

〇(おわりに)コーディネーター・山田康夫さん

 それぞれの部落の姿が個性的で主体性のあるまちでないといけないと思う。その姿を何がつくりだすのかというと、やはりそこに住む人、その人たちの力によって築き上げられたものが、まちの姿・かたちとして機能していく。何が必要なのかについてのキーワードとして、やはり「人」だということがみえてきたのではないか。

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