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第50回人権交流京都市研究集会

第2分科会

 共生社会と人権

「改正」入管法と在日外国人のこれから

 

 尋源館101教室

                  

第1部 報告  13:30〜15:35

      報告 1  古 屋 哲さん

     報告 2  郭 辰雄 さん

     報告 3  ラボルテ 雅樹 さん

  

第2部 パネルディスカッション 15:45〜16:25

     司 会   金 周 萬 さん

  

担当団体      京都・東九条CANフォーラム

分科会責任者  朴 実 

       分科会庶務   小 林 栄 一

 

京研集会第2分科会報告

 

本年の第2分科会は、現在京都や関西圏で活動を行っている三団体からパネリストを招き、現状の報告を受け在日外国人の現状の理解を深めた。

最初にLINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)事務局員古屋哲さんから、日系南米人の相談・支援活動を行ってきた報告があった。

1990年施行の改正入管法で4人の祖父母のうち1人が「日本(籍)人」であれば、3世まで「日系人」として在留資格「定住者」として来日できるようになり、「日系」でなくても配偶者と子供(4世)孫(5世)も家族同伴で来日した。ペルー人だけを見ても最大時に6万人程にもなった。どう見ても日系人とは思えない人たちが来日したのである。日系人はペルー社会に溶け込んでおり、そこに張り巡らされた利害関係にがんじがらめになっている。当時の相場で日本での収入はペルーの20倍に相当し、そこから戸籍の売り買いが発生した。「日系人」だけを選んで、高額に見える賃金を払う仕組み自体に無理があり、ペルーと日本の社会に歪みをもたらした。今回の「特定技能制度」は産業界にとって「人手不足に対応」するためであり、「即戦力外国人の受入れ」の仕組みである。「人手不足に対応」とは量の調整であり、必要な分だけ入れて余ったら閉め出すことも含まれる。「即戦力となる」とは現場で技能を修得する時間も省きトヨタ・松下方式のようなジャスト・イン・タイムで現場に供給される労働力の事であり、外国人技能実習制度の延長線上にある。転職は可能とあるが、職種変更を含む本人の自由契約ではなく余った所から足りない所に回すという事ではないか。これらの事を可能にするため、国の機関は30年間の経験を踏まえた様々な準備を行ってきた。労働市場と労働現場の管理監督を超える強制力の作用する強制労働と働かなければ追放する、すなわち在留資格を取り消すという出国確保のローテーション方式といえる。それは入管だけではできない。雇用企業等の社会的機関による監視・管理と排除が重要である。「特定技能外国人支援計画」とは、雇用企業や「支援機関」に労働者の私生活を管理させる目的である事を排除できない。「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」とは支援策であると同時に、例えば「在留カード番号」を入管以外の行政分野(労働行政、地方自治体)や銀行・携帯電話契約、更には病院・学校でも使用することで管理を徹底する意図がある。社会福祉も提起されているが、精神を病んだ者、障碍児のいる母子家庭、非行少年なども果たして視野に含まれているのか疑問だ。30年近く日系南米人の支援活動をしていると、支援内容がますます具体的になるにつれ内向き思考になってゆくように感じる。在留資格があれば支援ができ、なければ何もできない事がある。「どうしようもないこと」を前にした無力な私たち。「できることをする」しかないが、それだけが「現実的」なのだろうか。これからも考え続けてゆきたい。

続いてコリアNGOセンター代表理事の郭辰雄さんから「改定入管法をとりまく社会状況−葛藤する管理・排外・共生−」について次の様な報告がされた。 

■今年の4月から新しい入管法が施行されるが、日本社会の外国人に対する排外と差別がどのような状況にあるのかを考えたい。外国人受入れの議論は日本の人口動態と深くかかわっている。人口動態の展望によると2050年の総人口は9500万人となり、高齢人口比が圧倒的と予測されていた。その中で問われた課題が外国人を受入れるべきか、受入れるとしたらどう処遇すべきかという事である。30年前から日系南米人や技能実習生の受入れながら政府は「移民政策」はとらないと言い続けている。労働力であっても生活者(移民)ではないとは、権利を持った個人として処遇しないということである。日本には外国人の人権を保障する法律も制度もなく外国人への差別を禁止する法律もない。外国人の増加を背景に2006年「総務省多文化共生の推進に関する研究会報告」が出され多文化共生が議論されてきたがその実施は各自治体に委ねられた。昨年新設された特定技能制度は、様々な問題・事件を生んだ技能研修制度の延長であり、国際的な外国人労働者の争奪が始まる中で、これでは日本に働きに来る人はいなくなる。一方「在日特権を許さない市民の会」などの悪質な排外主義・ヘイトスピーチは、20124月から20159月までに1150回以上も行われた。20166月に施行された「ヘイトスピーチ解消法」では「本邦外出身者に」対して「多大な苦痛を与え」「地域社会に深刻な亀裂を生じさせる」差別扇動を許さないと明記された重要な法律だが、罰則規定・禁止規定のない理念法となっている。現場を担う自治体では条例制定に向けた動きが始まっている。大阪市が「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」を制定した。神戸市も条例制定に動いている。名古屋市では2017年に議会で副市長が条例制定に向けた調査開始を表明しており、堺市も条例制定に前向きである。またヘイトスピーチに限定せず人権全般を包括的に取り扱った世田谷区「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」施行、「国立市人権・平和条例案」委員会可決などの動きもある。京都府・京都市ではヘイトスピーチに対する条例の制定はないが、「公共施設使用規制のガイドライン」を2018年から施行しており、「ヘイトスピーチ解消法の趣旨に則り」「不当な差別的言動が行われる蓋然性が高く」「施設の管理上の混乱が見込まれる」場合に「不許可・許可の取り消し・条件付き許可などの措置をとることができる」としている。その他京都府では弁護士会と連携して人権相談窓口を開設している。だが京都市では、日本第一党の西山たけしが京都市庁舎の記者クラブで市議選立候補記者会見を行なう事を利用を許してしまった。川崎市でも同様のガイドラインが2017年に制定されたが日本第一党(元在特会会長桜井誠の創った政党)最高顧問の瀬戸弘幸の講演会を市民運動からの抗議活動にも関わらず不許可にすることができなかった。レイシスト集団の日本第一党は今度の地方選挙に12人の候補者を立てている。またインターネットにはびこる差別事象への対策が重要課題になっている。ネットにおける差別事象は外国人だけではなく被差別部落に関するものが増えており、インターネット上の人権をどう保障するのか大きな社会課題になっている。ヘイトスピーチ解消法後は政治課題に見える外皮を被っている。これはメディアでも見られる。昨年の北大阪地震時SNS上には「外国人の窃盗・強盗にご用心」「不法侵入強盗から家族の命を守れ」等の書き込み・流言飛語が出た。自警団などに6,000人もの朝鮮人が殺害された関東大震災を思い出さずにいられない。排外主義者は日本社会の少数者とはいえ影響力を確保しようとしているし、その影響も無視できない。それにどう対処していくのかは政治だけではなく、市民一人一人が向き合ってゆく必要がある。その際、平和(冷戦的思考からの脱却と平和共存のための会話)、歴史(侵略戦争への真摯な反省、アジアへの偏見・蔑視感情からの脱却)、人権(人権保障のための法・制度の整備)というキーワードを是非考えていただきたい。

最後にユニオンぼちぼち(関西非正規等労働組合)執行委員長、とよなか国際交流協会・半貧困ネットワーク大阪の活動家ラボルテ雅樹さんが「外国ルー角人々が抱える課題と背景―社会的排除の視点から」というテーマで次の報告を行った。

■私は1991年生まれのフィリピンと日本のハーフ、生まれたところは大阪八尾市で両親の離婚のため幼少期の3年間はセブ島で過ごした。私自身の「個人/家族史」を社会課題としてとらえたい。母は「仕送り」目的で10代に来日した。私には3人の父親がいるが、父親がいるときは暴力があり、いないときは生活困窮に陥る。3番目の父親は母を日本の民法の及ばないフィリピンに送り、弟を出産させた。弟は長い間日本に来られない立場に置かれ、私は一人で日本に残され生活困窮の経験をする。私の住民登録上の名前は吉本雅樹で2番目の父親の苗字であるが、自分のアイデンティティを大事にする意味で母の苗字ラボルテを名乗っている。日本社会には旧植民地出身者であるオールドカマーとその子孫、インドシナ難民の受け入れや中国残留孤児と親族、80年代からのニューカマーの受け入れで300万人もの外国籍者が既に住んでいる。それに伴い外国ルーツの子供・若者が増え、33人に1人が外国ルーツの子供であり、世田谷区の成人式では8人に1人が外国ルーツという状況になっている。日本社会の構成員でありながら法律上は「出入国管理の対象」として扱われ、在住外国人の存在は周縁化され抱える生活課題も不可視化されている。日本社会が外国人を必要としながら、人間としてではなく労働力として管理の対象とされ、在留資格によって仕事の選択肢を狭められ、問題を抱えても公的支援にアクセスができない「身を潜めた暮らし」を強いられ、労災や傷病手当などにアクセスできない。配偶者からのDV被害を受けても告発できない状況に結びつく。ユニオンで取り組んだケースでも会社が外国人だから健康保険に加入できないという嘘の説明をし、ずっと我慢して身体が悪くても病院に行くこともできなかったというフィリピン女性のケースがあった。外国人労働者への差別と周縁化のプロセスは次世代においても再生産されている。フィリピン人世帯の84%が母子世帯である。大学進学率は50%、高校進学率が50%にも満たない。2019年小中学校の就学年齢にある外国籍の子どもの少なくとも約20%にあたる約16,000人が、「就学不明」である事が明らかになった。ニューカマー2世は圧倒的に不利な状況の中で労働市場に参入せざるを得ない。文化の違いや日本語能力の不足、生活基盤の不安定さが第2世代にも影響している。社会的排除が複合的に人を追いつめる過程や状況は、最後は「あなたのせい」という自己責任論に片付けられ、自らがそれを「じぶんのせい」ととらえて内面化し「自分を大切に思えない」自らの排除に至るといえる。自分は「改正」入管法をめぐり大きな欠如を感じている。研修生や留学生が母国で「債務奴隷」の状況にあることへのアプローチがなく、入管収容者や資格外活動・「不法滞在」の状況にあるものへのアプローチがない。外国人共生対策約200億円のほとんどは「不法就労対策」ではないのか等々。私はユニオン活動などで外国ルーツの人々が抱える労働・生活課題への支援おこなうと同時に、フィリピンと日本の「ハーフ」として日本人への支援を継続する。そのことをもって、「分断や排除が進化する社会」に抵抗してゆきたい。

第二部は報告を受けて、会場からの質疑を交え理解を深めた。

■先ず、ヘイトスピーチや排外的な行動をとることが後を絶たないのはなぜかということが取り上げられた。報告者からは、在日の弁護士に対する「懲戒処分請求」事件を起こした人々は560代のごく普通の人々であり、朝鮮学校を排除することは日本のためという歪んだ正義感を持っていることが述べられた。人権感覚が脆弱である上に、日本会議が主張するような北朝鮮・韓国・中国は日本の敵であるという感覚と優越感をメディアなどから刷り込まれている。ヘイトに対処するためには人権意識だけではなく、歴史を見つめ、どのような関係を作ってゆくのか考えなければならないということが提起された。次に、ヘイトスピーチ条例が取り上げられ、国立市・世田谷区の条例は理念的にすぎるのではないかとの指摘があったが、まず理念的な位置づけをしっかりすることが重要で、次に具体的なプロセス・施策をどう作って行くかになる。各自治体の条例を問題にする前に、日本に外国人の人権保障や差別禁止の法律がないことが根本問題で、条例はそれを具体化していくところで作られるもので、今はそれが逆転している。注目しているのは川崎市が人種差別を禁止する日本で初めての条例を検討していることだ。【編集注:川崎市はヘイト対策の強化のため、20193月あらゆる差別を包括的に禁止する条例の骨子案を作成し、12月の市議会に提出することとなった】これは市民運動と行政が差別を許さないという姿勢を共感し、うまくつながってゆくことが重要で、京都でもそのような関係を作りたい。その他にも支援活動をしていれば、合法かそうでないかということで支援をあきらめることもある「現実的」限界について話し合われ、「外国人の受け入れ」などという傲慢な日本のナショナリズムに捕らわれた「現実的」な事ことだけではなく、南北問題・植民地主義の歴史などがもたらしている現実があることを根底的に考え、現実はなかなか変わらないがイデオロギーの部分は変えられるという意見が出た。また、外国人が多く住む国家をどう作って行くのか、国家観は重要であるが、今は北方領土問題を見てもわかるように、「愛国」を語りながらいかがわしい「国家」を語る無責任な輩が影響力を持っている。これからの人は多くの外国の人と接し、意見を交わし、交流することが増えてゆき、今までなかった視点や発想も生まれてくる。今はまだ抽象的かもしれないが、共生ということの中身が具体的で現場に即したものが議論されることに期待する。などが活発に話し合われ分科会は終了した。

 

 

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