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第39回人権交流京都市研究集会

  分科会 共生社会と人権

戸籍がもたらす人権侵害

〜女性問題を中心に〜

                    京都市国際交流会館特別会議室

 

日   時  2008年2月16日() 午後1時30分〜午後4時30分

コーディネーター 島津 良子(立命館大学・奈良女子大学非常勤講師)

パネリスト    大田 季子(婚外子差別と闘う会)

         坂上 幸子(みこれん 滋賀)

         牟田 和恵(大阪大学大学院教授)

記   録    浦杉 伸介(京都市職員部落問題研究会)

 

報   告

 戸籍制度に内在する差別の中でも特に女性と子どもにもたらされる、人権侵害について第2分科会では報告があり、質疑応答がなされました。

 まず、「婚外子差別と闘う会」から大田季子(としこ)さんから、自らの体験を踏まえた報告がありました。大田さんは、現在のパートナーと暮らし始めるとき、大げさな披露宴などは行う必要はないが、やはり籍は一緒にするべきなのではないか、と考えましたが、ちょうどその時、戸籍制度が外国人や部落民、そして女性や婚外子に対する差別を様々に温存、助長しているという考え方に出会い、まずは、女性である自分自身が、彼との間で対等な関係を気づきたいと願い、婚姻届を出さなかった経過を語りました。

事実婚を選ぶことによって、子どもが婚外子となることの疑問もあり、大田さんは、出産の前に「婚外子差別と闘う会」に参加し、出生届の窓口闘争を行っていました。子どもの「氏名」を書く欄のすぐ右隣に「嫡出子」「嫡出でない子」のチェック欄があり、そこにチェックを入れることを拒否しながら、そのまま受け取りなさいという闘いでした。

事実婚を始めて4年後に待望の子どもをもうけ、出産し、事実の父が出生の届出をしました。チェック欄を拒否した上で、事実の父を届出人としました。しかし、そこで、彼が役所の職員に言われた言葉は「あなたは父ではない。」という一言であり、父ではないから届出はできないと、受理されず、生まれたばかりの赤ちゃんは、戸籍 未載 ( みさい ) つまり、戸籍に記載されない子どもとなりました。しかし、病気になったときや、保育園の手続きのことなどを考えて、住民票は必要と訴え、住民票の登録をすることはできました。ただし、事実上の婚姻関係にあり、母である女性も父である本人も、父である、と届出に行ったときに、その二人と日常的に何の関係もない、何一つ知りえない窓口職員が「父ではない」と言いきる理不尽さ、滑稽さについての指摘がまず、なされました。

 次に「民法と戸籍を考える女たちの会」から坂上幸子さんから、報告がありました。彼女は逆に、ごく普通に「届出婚」をしたのですが、夫から現在も障害が残るほどのはげしいDV被害(ドメスティックバイオレンス)を受け、やっとの思いで命からがら逃げていました。現在のパートナーとは、離婚が成立する前に出会い、子どもが産まれました。夫との接触は非常に困難でその後の離婚調停にも警備がつきました。子どもの出生届を出すときに現在のパートナーを父として届出ましたが、民法772条「婚姻中に懐胎した子どもは夫の子。離婚後300日以内に出産した子は前夫の子」という規定により、届出は不受理となりました。一度前夫の夫の戸籍に「嫡出子」として記載され、その後、夫に否認してもらうか、強制認知の手続き(その場合も前夫の証言などが必要)をしなければ、戸籍に搭載されることがないのです。坂上さんの娘さんは、その場で住民票も作ることができませんでしたが、5年間をかけて、何度かの交渉の末、やっと住民票はできました。事実の父の名前で17年間を過ごしてきました。

 戸籍がなくても住民票があるかぎり、就学、保険、選挙権、運転免許などほとんどの日常生活に支障はありません。しかし、唯一どうしても戸籍がないことによって拒まれるのはパスポートの取得です。大田さんは子どもが高校生になり部活の海外渡航の機会に、不本意ながら、悔しいけれども「父のいない正しくない子」としての出生届を再び出すことを決めました。坂上さんは、娘さんが修学旅行に行くことになった去年の正月に娘さんに戸籍のないことを告げました。旅券申請は、やはり戸籍の添付がないことを理由に不受理となったので、署名活動をし、マスコミにも訴え、外務大臣にも直接会うことができましたが、改正されたはずの旅券法施工規則は結局前夫の氏でのパスポートしか発行できないという内容であり、娘さんのクミちゃんは、修学旅行を断念しました。

 2本の報告によって浮かび上がってきた問題は、「父」という存在を誰が決めるのか?ということです。事実としての父をまさに当事者が届け出たときに、国家が、いや父はいないのだとか、父は別のA氏であるとかと言うことのおかしさです。

 最後にパネラーとして報告した大阪大学教授の牟田和恵さんは、そのような事態を引き受けて、近代産業社会がモデルとし、なおかつ、資本主義の発展に寄与してきたジェンダー家族すなわち「男と女からなる夫婦とその子ども」というモデルと、そこへ誘導するための様々なシステムが、現在大きな矛盾を抱えているという指摘をしました。また、地方自治体における「男女平等条例」が、いかにバッシングにあい、骨抜きにされてきたか、という動きと連動するように、現在は、DV防止法に反対する勢力が台頭してきているという事実も報告されました。

 質疑応答では、「今現在自分自身もDV被害で離婚調停中だが、様々な相談機関が昼間しかなく、仕事を休んでいくことの負担がある。」「婚姻をしたが通称名を使っている。パスポートの取得の時に、夫の名前であることに違和感があり、いつも抗議するようにしている。」などの意見がありました。また、自分の娘にも24年間戸籍がないという、神戸から参加してくれた女性は、「どんな犯罪にも時効というものがあるのに、この、婚姻中の懐胎という出来事に対する制裁については時効がない」と発言しました。

本来、子どもを産むという行為は、女性にとって本当に負担であると共に喜びであり、また、社会にとっても(特に少子化と言われる現在)貴重な事柄であるはずなのにもかかわらず、そのことが「犯罪」扱いされることの恐ろしさ。そしてそれに対する制裁が婚外子への差別であったり、772条の規定であるという理不尽。さらにDVという事情があった場合には、責を負うべきは暴力を振るったその男性であるにもかかわらず、元妻であった女性や、女性が出産した子どもが生涯にわたって苦しみを背負うことになるという不条理が、集会ではあきらかになりました。

また一方で、婚外子差別については、1995年に住民票の続き柄は嫡出子、非嫡出子を問わず子に統一されたこと。戸籍についても、2004年に、婚外子が「嫡出子」に合わせる形で、長男、長女という続き柄に変わり、そのことによって、出生届のチェック欄も「嫡出子」と「嫡出でない子」のチェック欄が残ったことは問題だが、あからさまに嫡出でない子に対して□男□女というチェック項目はなくなったこと。訴えていくことで、少しずつ変わって行く事はある、という発言もありました。コーディネーターの島津良子さんは、最後のまとめとして、「このように、生きがたい現実がある以上、私たちは訴え続けていくし、けっしてあきらめない。」と述べました。

 

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